780. 小さな凱旋

2009年秋の日、和歌山市内のデサフィナードで佐野安佳里さんライブがありました。和歌山市内では一年ぶりの佐野さんのライブでしたから、和歌山市のファンで会場は満員になりました。
 一年ぶりの佐野さんの歌はずっと洗練され情緒に溢れていました。約2時間のライブの最後は会場の一体感が感じられる素晴らしいものに仕上がりました。歌も雰囲気も盛り上げ方も成長していました。
 加えて歌を聴いて感じた事は、作詞作曲した歌に年輪が加わっていたことです。自分が生みだした歌は宝物であることが分かります。何年経っても、それどころか年月が経っていることで歌詞に深みが増しています。人生を生きてきた過程の全てが歌に乗っかっています。歌が彼女の生きてきた道を示してくれるようでした。分岐点に差し掛かった時、自分が生みだした何かがあると強くなれます。歌でも本でも何の成果でも良いので、何か確かめられるものが残っていることは素晴らしいことです。
 佐野さんの歌は全て作詞作曲を自分で行っています。その時、その時の気持ちが歌詞に込められていることが分かります。自分の言葉を作品として残すことの意味が今の私は分かります。その時にこの言葉を残しておかないと、その時の気持ちは永久にこの世から消え去るからです。20歳の時に何かを感じた気持ちを歌詞として、言葉として記録しておくことが何時まで経っても経験と共に輝きを増すことができるのです。20歳の頃の気持ちを歌えるとは、その時の言葉で語った言葉があるからです。40歳になって20歳を振り返っても、瑞々しい歌詞は生まれません。
 しかし20歳の時の歌詞があるなら、40歳になってからでも自分の人生の歌として歌うことが可能です。むしろ深みが増していると思います。

そして佐野さんが、地元和歌山市から飛び出して東京を拠点として頑張ってくれていることを嬉しく思います。皆さんの意見を総合すると満足度の高いライブでした。ライブに行く前の期待値が10だとすると20位の満足感を抱いています。10の期待に対して10の結果であれば、翌日まで余韻が残ることはありません。期待値以上のライブであったことが、翌日である今日も話に登場してくるのです。
 佐野さんは上京する際に悩んだことがあるそうです。その時、「みんなが期待してくれているのだから、それに応えてみたら」という期待値を感じられる応援があり、決心したと聞きました。
 一人ではなく周囲が押し出してくれることが素晴らしいのです。自分の才能を過信して「自分が」と前のめりになる人は数多くいます。それよりも黙っていても人が押し出してくれる方が素晴らしい才能だと思います。周囲が認めてくれて初めて人から愛される才能になるのです。
 そしていつも感心することですが、ライブでは和歌山の良いところを訴えてくれています。聞くと、東京でも大阪でもライブでは、故郷和歌山県の素晴らしさを歌の合間に話してくれているそうです。

 彼女の宝物を共有させてもらえたライブであり、歌を通じて人生を大切なものを贈ってくれるようなライブでした。土曜日の夜を楽しませてくれ、きらめく歌声が和歌山市に響きました。こんな空間、こんな時間がある和歌山市は幸せなまちです。


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