781. 役員就任

ある会社が合併したことを受け、それまでなかった労働組合を結成する必要が生じた時の出来事です。ふたつの会社が一緒になり、その親会社の労働組合に所属することになったためです。その会社の組合員さんの代表者で労働組合結成に関して連日、話し合いが進められたようです。しかし話し合いは進展しないまま日が過ぎていったのです。
 話し合いに参加していた一人の組合員さんが言いました。「もはや組合を作る、作らない、の話し合いをしていても仕方ない問題です。結成する必要があるのだから結成した後の体制づくりを進めるべきではないでしょうか」と。
 その通りです。前を向いて進めなければならない問題に直面している場合、やらないという選択肢はありません。悪戯に問題を問題のまま引っ張るのではなくて、やると決めて執行部の体制を整えることが先決になります。
 確かに個別の問題を考えていると、課題が多すぎてひとつの組合として機能しなくなるのではないかと思い不安になります。複雑に考えると解決の糸口が見つけられないので前に進めなくなるのです。
 それよりも物事は簡単に考えるべきです。最初の問題はやるかやらないか。やるのであれば、やるための方法を考えることです。分岐点に差し掛かった時、ふたつにひとつの判断を下すことになりますが、判断するに際しては複雑な要因をあれこれ考えるのではなくて、最大の障害となる要因をクリアできるかどうかで判断する場合が多いと思います。
 最大の障害を取り除くと、後に課題は残ったとしても何とかなるものです。先程の労働組合結成の議論の場合、結果は労働組合を結成することに決定し、問題提議をした組合員さんが役員のひとりに加わることになりました。誰かがやらなくてはならない課題に対しては、自分が引き受けることでそれが解決できるのであれば、引き受けて解決すれば良いのです。その代り役を引き受けなかった人は、文句を言わないである程度は任せるべきです。責任を負ってくれた人を、責任を負わない人が批判することは間違いです。
 労働組合の役員は組合員さんの最大公約数的幸福を追求してくれていますが、それは全員の幸せに結びつくことばかりとは限らないのです。なるべく組織全体の幸せの和が最大になるような取り組みをしていますから、制度設計の取捨選択は役員に任せることも必要です。
「意見を言った私が役員を引き受けることになりました」と話してくれましたが、その後の言葉は前向きでした。「でも役員を引き受けたことで、組織外の方との交流機会が増えていますし、経験を深められていると思います。それは活動を通じて組合員さんに返せると思います」。
 ですから、私もこの新しい役員さんに会うことができたのです。役員に就いたら出会う人も数多くなりますし、自分の活動領域外の人に会う機会が飛躍的に増えます。普段の自分だと立ち入れない領域の人と知り合えることは大きな財産になります。知識の数、考える幅が拡がるからです。


コラム トップページに戻る

前のコラムへ   /  次のコラムへ