720. 時間の圧力
 先日、40年ぶりに同窓会を開いたという、仲の良い同級生四人組の方とお話しする機会がありました。その時は昔話に花が咲いて、食事はほとんど採らなかったそうです。その後、何度か同窓会を開催して近況報告を話し合っているように、再び付き合いが始まっています。
 同じように、私も近頃、小学校と中学校時代の同窓会が30年ぶりに開催されたので参加してきました。容貌に変化があり、「最初は誰だったかなぁ」という感じでしたが、時間と共に幼かった日の容貌が浮かんでくるから不思議でしたし、話は尽きなかったのです。

 積み重なった時間には圧力があります。閉だされた栓が開封されるように、長い間、会っていない同級生が再会すると時間の圧力が開封され、過去の思い出がよみがえるのです。長い間、忘れていた出来事が湧き出てくるから不思議なものです。その上、お互いが別の人生を歩きだして以降の物語も語り合えることも不思議なことです。
 子どもの頃に同じ時間と場所を共有した仲間が、大切だった時間を取り戻すのです。そしてその後に続いている大切な時間を、違う人生を歩いている仲間に話すことで、自分の歩いた道の確かさを確認しているのです。人は他者から認められることで、社会での立ち位置を見つけられます。誰かや社会から相手にされないことは、心の痛みであり自己の否定なのです。

 利害関係のない間柄の仲間であり、そして小さい頃に相当の時間を共有した仲間に対しては、決して同じ時間を過ごしていない時の出来事を話でも肯定しあえるので、水の通っていなかった管であっても通じあえるのです。
 それは時間の圧力が成し得ることなのです。
 人が生きることはそれほどの重さがあるのです。生きている年月が大きくなると、それに伴って時間の圧力も大きくなりますから、人生は重くて厳しい道を歩いているように思ってしまうのです。

 でも時間の圧力は、一般的なもの圧力とは違います。常に圧力を感じているのではなくて、ポケットに詰め込んでいる宝物のようなものだからです。子どもの頃にポケットに詰め込んだおもちゃやきれいな石ころなどは、どれだけ量が増えても重くはなかったのです。ものの重さは感じていても夢が詰まっていたからです。所有しているものが少ない子どもにとって、景品のおもちゃであっても夢を感じる宝物だったのです。夢が重たいとは誰も思わない筈です。おもちゃという夢が増えていく。夢の圧力が増えていったのです。

 いつしかおもちゃや石ころが宝物でなくなり、それと同時に夢は近い存在から遠い存在へと姿を変えてしまいます。
 でもそんな夢の詰まった思い出が時間の圧力であり、同級生達はその時間の圧力を開封してくれる鍵なのです。小さい頃の夢がよみがえり、その後の厳しい人生の過程も、かつての同級生に話している中で思い返せば、夢を追い掛けている日々であることにも気付かせてくれます。

 時間の圧力とは、人生の宝物である時間は、夢を叶えさせてくれているものだと気付かせてくれるものです。普段は軽くて存在が分からないけれども、開封された自分の口で話すことによって、重みを感じることができるものなのです。
 時には辿ってきた時間の栓を開封して、時間の圧力の中からキラキラしたものを取り戻したいものです。キラキラしたものは他者の中ではなくて、自分の心の中に存在しているのです。

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