713.スピード
 地方自治体幹部の方からトップによる違いを興味深く聞かせてもらいました。何代かのトップに仕えた経験から、成功する事例とそうではない事例が判るようです。
 あるトップは職員の話を頷きながらよく聞き、採用するものは提案した職員さんをリーダーとして仕事を進めさせるのです。恐らくトップは、財政面の裏づけと失敗した場合のリスクを自分が取れるかどうか瞬時に判断しているのです。企画書に書かれている大意が理解できたら、予算化して即座に仕事をスタートさせるのです。仕事にはスピードが必要です。

 そして議会答弁の打ち合わせについてです。基本的に当局案を聞きます。主旨さえ理解できたら細かい語句の修正はしません。当局からの説明をよく聞き、部長の考え方を吸収していきます。そうして原稿内容を自分のものとして消化しますから、打ち合わせの時間は短いのです。

 しかし打ち合わせ翌日の議会での答弁では、原稿通りではなくてトップとしての自分の考え方を含めて一般質問への答弁を行ったそうです。つまり融通が利くのです。

 別のトップに仕えた時のことです。同じ事例で比較すると違いが判ります。
 職員さんからの提案は殆んど採用しなかったそうです。理由はあるのでしょうが、予算がないこと、新しいことに関心がないこと、失敗したくないことなどが考えられます。そうすると職員さんからの提案がほとんどなくなったそうです。トップに提案しても採用されないばかりか、予算面で実施できないと返されるためやる気がなくなるのです。自分で考え企画しないと仕事に関する能力の成長速度は遅くなります。各人の成長速度が遅くなった組織に、よい仕事ができるものではありません。個人の成長を促すことが組織を成長させることですから、トップは個人からの様々な提案を聞くことが大切です。

 議会答弁の打ち合わせについてです。当局案に対して一字一句注文をつけます。確かに一時違うと意味が違ってしまう場合があり大切なことですが、主旨が正しければ、語句の修正は自らの答弁時に修正して発言すればよいことなのです。打ち合わせの途中で語句の修正を行うので、時間が長時間に及んでしまいます。そして翌日の議会答弁では、一字一句原稿通りに読みますから、答弁は正確ですが心の通わない答弁になります。

 同じ答弁内容でも、原稿を読むだけの答弁と、必要な部分を自分の言葉にアレンジして答弁するのとでは、受け取る側の気持ちは全く違ったものになります。

 基本的にトップに合わせることが組織ですから、どちらのトップが優れているのか比較するものではありません。ただ当然のことですが、組織はトップが替わると仕事のやり方が違ってくるのです。時代によって価値観は違いますが、仕事にはスピードと懐の深はいつの時代でも求められると思います。組織がしっかりとしいても、トップによって成果が変わってくることも事実ですから、私達の選択が大切なのです。

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