622.居心地の良い空間
 人には居心地の良い空間があります。慣れた場所や何故か落ち着く居場所などがあるものです。仕事場も同じで慣れた部署でいると落ち着きますが、違う部署に身を置くと落ち着かない感じがあります。そんな場所は居心地の良くない場所とも言えます。
 居心地の良い場所にいると安定しますが、違う環境になると心身ともに疲れます。しかしその心身の疲れは成長のための疲れだと思います。

 自身の体験から三つの場合があります。
 ひとつ。和歌山県が主催するジャパンエキスポ南紀熊野体験博実行委員会に出向した時のことです。初めてで慣れない職場と知らない人ばかりの環境、そして前例のない初めての仕事だったため、暫くは疲れたことを覚えています。

 同じ会社の異動であれば、雰囲気は似通ったものがありますし、誰か知っている人がいるものです。しかし全く違う環境に身を置くと職場文化も人も違うので、結構、精神的に疲れるものです。何気ない友人からの電話にどれだけ励まされたことでしょう。
 ただ全く違う環境で培えるものがあります。今までとは違う出会う人、モノ、情報がそれで、その後の大切に財産になります。これらは同じ環境にいては自分のものにならないものばかりですから、居心地の良い環境から離れることは、確実に成長につながります。

 ふたつ。市議会議員になった当初のことです。初めての議員生活や議場でのしきたり、議場での一般質問など、全てが初体験づくしで、心良い緊張感やプレッシャーを感じたものです。一般質問の場に立たせていただき、先輩から市政の指導を受け理解できるようになったことから徐々に環境に慣れて来ました。やがて居心地の良くない空間から居心地の良い空間へと、置かれた環境は変化していきました。

 みっつ。市議会から県議会に転出した時もそうです。やっと慣れた市議会の環境から県議会という、似ているようで全く違った環境に身を置くと、やはり最初は居心地の良くない空間だと感じます。「しまった。居心地の良い場所でいた方が良かったかな」と思ったりもしますが、今いる環境の中で全力を尽くすことが大切だと分かっているので、月日を重ねるにつれて、やがて環境に適合していきます。ここでも居心地の良くない空間から居心地の良い空間へと変化していきます。

 このことは、周囲に環境変化はないのですが、自分が変化していることから起こるものです。最初はその場所において自分の存在が異分子だったのに、時間とともにその場所に普通に存在する立場に変化していったのです。人間の適応能力の凄さと、違う環境に在ることで人は成長することに気付かされます。

 違和感のある環境から抜け出して、自分がいることが自然な環境になることは、自分にとって居心地の良い空間を作り出しているのです。不思議なことに居心地の良い空間に馴染んでいくと緊張感が失われて行きます。人は緊張感を持つことで成長するものですから、余りに居心地の良い空間に長くいると、その環境の位置で成長は止まってしまいます。

 居心地の良い空間に長く留まりたいと思うものですが、勇気を出してそこから飛び出すことも必要です。長く同じ場所にいると自分がその環境と同化してしまうので、自らで変化を起こすことは出来なくなってしまいます。長く同じ位置にいる人が変化を起こすことが出来ないのは、自分の存在がその環境を作り出しているからなのです。
 変化を起こすことが出来るのは、常に居心地の良い空間から脱出しようとしている人達です。そこには勇気とエネルギーが必要なことは言うまでもありません。
 次に待っているのは居心地の良くない空間だと分かっていても、その世界から飛び出した人達が、再びそこを居心地の良い空間に変化させるのです。

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