621.遠くなる
 一瞬にして人生が遠くなってしまう感覚。幸運にして私は味わったことはありませんが、突然、人生が遠ざかるよう感じたとしたら、どうなるのでしょうか。ある方と普通に話していた時に、突然「女優だった夏目雅子さんと同じ病気、つまり白血病だと分かりました」と健康について聞かされました。本当に「ホント」驚きました。
 いつも元気に仕事をしていて、管理職として頑張っていることを知っているからです。病気が発覚したのは平成20年に受診した人間ドッグでした。仕事は順調で、人づきあいもしていたくらいですから体調の変化は全くなく、自分が白血病に侵されているなんて思ってもいなかったのです。

 人間ドッグの診断結果「あと一年」と宣告を受けました。その瞬間は、自分の人生がずっと遠くに遠ざかったような気がしたそうです。それまで抱えていた仕事や生活上の問題なんかは、気にならなくなってしまったのです。仕事で頑張れば解決できるような問題は、これからの闘いと比較すると対処は簡単なもので、自分ではどうしようもない問題と比べたら些細なことなのです。
 遠くまで裾野が拡がっていた人生が、突然見通せなくなってしまったのです。一年後のことすら分からなくなってしまったのです。改めて命と健康が、どんなに大切な仕事よりも価値のあることだと気付かされます。

 誰でも突然、人生が遠くなることがあるのです。不満と批判の人生ではなく、遠くまで歩ける、そして走っていけるような伸びやかな人生にしたいものです。不満と批判は大切な人生の時間を短くさせてしまいます。他人に対してそんなことを思う暇があったら、しっかりと自分の行く先を見据えて、誰もが限られた時間の中を生きていますから、少しでも遠くへ歩き続けて、まだ見ぬ素晴らしい光景を見たいものです。自分の位置から遠くに行くほど、これまで体験したことのない人生の光景が見える筈です。
 遠ざかった人生は、自分がこれから歩いて辿り着くべき距離を伸ばしてくれているようです。ゆっくり歩いていると何十年もかかってしまう距離を、一年間頑張って歩きましょう、そうすれば人よりも先に人生で見るべき光景が見られるよ、と語ってくれているようです。

 容赦なく時間は未来から自分のところにやって来て、そして瞬間の内に自分の感覚を通り抜けて行きます。今がもう過去になっているのです。命の大切さを自分のことと捉えると、こんな当たり前のことを感じます。
 これから先、何百万年という時間が未来から地球上を通り過ぎます。私達の元にやってくる時間はその内の百年前後です。日々、生きる意味を感じられるなら、十年先に感じられるものを一年先に感じることができます。凝縮された時間を生きることが、人生で素晴らしい光景を見るために必要なことです。
 誰にとっても有限の人生ですから、未来からの贈り物である時間を自分の前を素通りさせないで濃いものにしたいものです。

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