531.生きる
 早いものでTさんは、会社を定年になってから20年が経過しています。Tさん自身はそんなに年月が過ぎていると思えないのですが、本当にあっと言う間だそうです。そんなTさんからのお話です。

 感覚では、ついこの前に70歳になったと思っていたのですが、もう80歳を超えました。70歳の時は人生80年と言っていたのですが、自分がその年になると生きることが何よりも大切で、そうは思えないのです。

 定年になってから陶芸、絵画、書道、俳句、そして社交ダンスを習いました。人生を有意義に過ごしたいと考えたからです。しかし振り返ると会社生活で何を残せたのか分かりません。今になって思うことは、結局、何も残せないままに年齢を重ねたように感じていることです。生きている限り社会で、自分のいた会社で何かの成果を残したかったと思います。気がついた時は遅いこともありますから、今をしっかりと活動して下さい。出来る時に、出来る立場にある時は人生において大切な時間です。直ぐに時間は過ぎ去って、やることのない時代に突入します。

 人生で努力をしても何の結果も残せないかも知れません。でも努力することは何よりも大切なことなのです。努力しなくても前に道は広がっていますが、努力した方がより良い道が開けて来ます。その道で出会う人は必然の出会いですから、大切にして下さい。出会うことのない人は決して出会わないものですから、人の出会いには何かの意味があるのです。今日の出会いも大切に考えて下さい。

 私は生きる意味を考えさせられる経験があります。私の兄は第二次世界大戦の特攻隊で亡くなりました。それはまだ18歳の時でした。私も兄の後を継いで志願兵になろうとしたのですが、兄から「国のために続いてくれることは歓迎する。しかし父母を大切にして欲しいと思います」との返事がありました。この意味は前の言葉は飾り言葉で、本心は、「私(兄のこと)は仕方ないけれども、お前は決して志願するな。命を大切にして私の代わりに父母を守って欲しい」と言うものでした。兄はその後、特攻隊で死亡しました。命の大切さを、兄は身を持って示してくれたのです。

 父からは、「志願兵にならなくても恥じることはしない。今は迷っていても必ず新しい道は開かれるから心配することはない」と諭してくれました。家庭の事情で小学校を出たら働こうと思っていたのですが、担任の先生から、「是非中学校に進学させてあげて欲しい」と言われ、奨学金をもらって進学しました。そのお陰で、鉛筆と口だけで仕事をする幸運に恵まれました。人生とは分からないものです。

 10歳代の時に命の大切さと人生について学んだのですが、結局、人生で何を残したのは分からないのです。それ程、生きる目的を持つことと、それを達成することは難しいものなのです。議会活動で全力を尽くして下さい。まだまだ大きくなると確信しています。

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