496.夢の球団
 和歌山県民球団「紀州レンジャーズ」の選手セレクションには、約50名の参加がありました。スタンドには応援のために来てくれた人も多く、野球は和歌山県の関心事であることをうかがい知ることが出来ました。
 当日の和歌山市は春のような暖かい気温で過ごしやすいものでした。選考は50m走とキャッチボール、守備練習と打撃練習などでした。選考は箕島高校出身、元西武ライオンズの木村竹志投手。元西武ライオンズの小田投手。元広島カープの井上選手。特別選考委員として現東北楽天イーグルズの松井二軍監督が参加してくれました。

 平成21年春からの独立リーグ参画を目指して発足した「紀州レンジャーズ」は、プロ野球選手を目指すこと、野球振興を通じて和歌山県の活性化を目指すことを目的としています。新春の日差しの中、紀三井寺球場で夢を追いかけて、溌剌と動く選手たちの姿を見ていると、「紀州レンジャーズ」は和歌山県できっと成功すると確信しました。そして好きな野球を思いっきり楽しんでいる選手の姿から、考えさせられることがありました。

 自分の可能性を信じて現実になるかもしれない目の前の夢を追いかけることが生きていることだと言うこと。もしかしたらこれが最後のチャンスだと思って、全てを賭けた挑戦をしていること。プロへの道は敵わないと知りながらも、自分で自分の野球人生を認める意味からも挑戦すること。これらの思いは生き方の全てに共通するものですから、その姿勢に学ぶ必要があります。
 挑戦している選手は人生の傍観者ではなく、この時、確かに主役を演じていました。私達も、社会においては主役になれないかも知れませんが、自分の人生においては主役になる時を創りたいものです。常に傍観者でいる人生は生きていることになりません。

 ところで傍観者とは、自分で感動を作り出さない人だと私は思っています。感動は体験から派生するもので、他人が与えてくれるものではありません。映画やドラマからも感動させられますが、これは与えられた感動であり、自ら作り出したものではないので分ける必要があるのです。競書会で金賞を取る。ピアノの演奏会の舞台に立つ。イベントの実行委員として活動するなどの体験は、例え小さくても自ら作り出した感動体験ですから、自信となりいつまでも忘れることはありません。自らが人生の主役となる上質の感動体験を数多く持っている人が幸せな生き方をしていると思います。
 今日参加した選手は、今日の挑戦を忘れることがないと思います。それが自ら主役の感動体験そのものなのです。私もスタッフとして選手と同じような上質の時間を共有することが出来ました。

 それにしても和歌山県には野球が似合います。新春の球場は、主役達が帰ってきたことで輝いて見えました。今から一年後、この球場をフランチャイズとして和歌山県民球団が本当の活動を開始する日が一気に待ち遠しくなりました。
 さてセレクションの選考に立ち会いました。プロの視点は素人と違うものでした。重視する点はスピード、走力、守備力、肩などで、例え打撃力があったとしても実践では使えないものがあるようです。投手はスピードとコントロールです。コントロールがないと実践では使えないからです。他に大切な点は、怪我をしない、していない体であることです。

 そして実技試験を通過した選手の面接に入りました。面接官を担当させてもらいましたが、素晴らしい体験でした。全ての選手がプロ野球選手への夢を持ち、自分を信じていることが分かったからです。なれると信じて発せられる言葉は感動モノでした。
 「小さい頃からプロを目指してきたのでそれを追求したい」「一度野球を離れたけれども、もう一度夢を追いかけたくなった」「やっぱり野球が好きなので、若い内は挑戦したい」など、決して夢を諦めない姿には元気付けられました。仮に本日のセレクションに合格したとしても、仕事と野球の両立させることが求められる厳しい世界が待っています。それも将来の保証はない世界です。それでも定職を辞めてでも挑戦したいと、大部分の選手は答えてくれました。沖縄から関東からの選手も、合格したら今の仕事を辞めて和歌山県に移って来たいと夢を話してくれました。人の夢を聞くことがどれだけ自分にも影響を与えてくれるのか、身をもって体験しました。夢からは元気を貰えます。後ろ向きの意見からだと元気を奪われます。その差は天と地ほど違いますから、夢を追いかけている人と付き合うことの大切さを痛感しました。

 さて、小さい頃から野球をやっていても、高校や大学を卒業した時点で、続けるか辞めるかの選択に迫られます。社会人で続けられたとしても一般的には20歳代までです。25歳の選手は「同年代の人の大部分は野球を辞めてしまいました。25歳からでもやれば出来ることを証明したい」と話してくれましたが、わずか25歳で夢をつかめるか諦めるかの岐路に立たされているのです。好きな世界であっても厳しい世界なのです。短い期間に成果を挙げなければ生きていけない、そんな姿に接すると、人生の相当長い期間を使える仕事に就いていることの有難さも感じます。まだまだ加速のギアを上げられるのです。

 そしてもうひとつ大切なことに気付きました。独立リーグの北信越リーグ出身の選手が二名いたのですが、尊敬する野球選手はとの問いに対して意外な答えが返ってきたのです一人は「元福岡ソフトバンクホークスの宮地選手」もうひとりは「元阪神タイガースの榊原選手」と答えたのです。宮地選手と榊原選手は、共に北信越リーグの指導者をしていたのですが、若い選手にとって、憧れのプロ野球選手が身近にいることで全てのお手本になっているのです。それは技術面だけではなく生活面や他人を思いやる気持ちなど、厳しい世界を戦い抜いてきた選手だからこそ得たものを、実践を通じて伝えているからです。

 身近なところにお手本となる人がいることや、見習いたい人がいることの大切さが分かります。生きる上での大切なものに気付くことで、後々充実した生き方をすることが出来るのです。独立リーグで地域振興につながることは勿論、周囲の方々の人間形成にも資することになりそうです。北信越リーグでは地域からの応援が凄かったそうです。富山県のチームの観客動員数はリーグで一番になる程に盛り上がったようです。地域への波及効果は予想以上かも知れません。

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