472.現場を知る
       ・現場からの意見
 平成19年にお亡くなりになったアシックス創業者の鬼塚会長。和歌山市在住のOさんによると、かつて和歌山市に講演のために来てくれたことがあったそうです。その時、Oさんが会場でお迎えしていたところ、思っていたのと違う方向から会場入りされたそうです。 
 鬼塚会長に理由を尋ねると、「創業間もない頃から、和歌山市で商品のスポーツシューズを取り扱ってくれているスポーツ店に挨拶を言うために立ち寄りました」と言う返答でした。創業時は大手のスポーツ店からはアシックスのシューズは相手にされなかったようです。海のものとも山のものとも言えない時代に店頭にシューズを並べてくれたスポーツ店を、会社が大きくなった後も忘れることなく記憶していて、講演会よりも少し早い目に和歌山市に入って挨拶に伺う姿勢に触れたOさんは、感銘を受けたそうです。

 会社が大きくなっても謙虚な姿勢で、そして苦しい時代に受けたご恩を忘れていないことに対してです。これは誰にでも該当する不変の法則です。謙虚な姿勢が大柄な姿勢に変わると危険信号です。ご恩を忘れて自分ひとりで大きくなったと思い始めたら、これも危険信号です。いつまでも謙虚に、そして皆さんからのご恩を忘れないで感謝の気持ちを持ち続けること、これが繁栄の秘訣です。

 また鬼塚会長はまだ会社が小さい頃、中学生や高校生の競技大会に良く出掛けていたそうです。バスケットやバレー、野球やサッカーなどの競技を、自分で学生の動きを観察して靴の変化や体重の掛かっている状態を確かめていたのです。そして試供品を生徒や選手に提供し使ってもらい、履き心地や改善点などを聞いていたのです。その意見を基に改善を図り再び競技大会に出掛ける、その繰り返しを行っていたのです。現場に出掛けること、現場の意見を聞くこと、それが会社経営だけではなくリーダーとしてのあるべき姿です。

 議員の活動も全く同じです。その気になれば資料は豊富に集められますから、現場に行かなくても、現場の意見を聞かなくても、ある程度裏づけされた考えは出来ますし、受け答えも可能となります。しかし実際に現場を知っているのと、現場に行ったことがないのとでは、その迫力は全く違います。

 資料で知っている範囲で話し合うと、手持ち資料の範囲以上の受け答えは出来ませんから、資料を作った人を超えた議論は出来ないのです。つまり資料を作成した人の考えの中で議論は収まることになります。もし私達はリーダーの立場であれば、担当者が作成した範囲内で判断する以外に方法はありません。何故なら、担当者は資料作成のために現場を踏んでいますが、リーダーが現場の実態も本音の意見も知らないので判断する材料がないからです。仮に現場を知らないのに判断することを繰り返すとしたら、その企画は成功しないことになりますし、会社自体が危うくなります。

 リーダーは自ら現場に出掛けて体験してみること、現場と意見交換を図ること、これが適切な判断をするために最も大事なことです。鬼塚会長は最後まで現場を重視してシューズに改良を加える、そんな人だったに違いありません。
 私は議会の一般質問に際しては、皆さんの意見を伺いに周っています。議会においては、皆さんからの意見を受け取ることだけが行政当局に対向する手段です。何故なら、行政法の解釈や規則や規律の適用に関しては行政職員さんには敵わないからです。それなら、県民の皆さんの意見を聞くこと、質問する項目に関心のある人の意見を聞くこと、専門家のアドバイスをいただくこと、これらの意見の補強をして質問を組み立てないことには、到底太刀打ち出来ないからです。 

 しかし皆さん方の意見が背景にあると、当局に対しての質問に厚みが出ますし、県民の意見の後押しが最も真実に近くて力強い応援になります。これらの後押しが当局に対向する力になりますし、規則の壁を乗り越える力にもなるのです。

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