460.島根県の一番
 県議会の視察で島根県を訪問しました。結論からすると最も素晴らしい視察になりました。県議会の視察では、実際に訪問先の地元の方と会うことで、資料やホームページからでは分からない素晴らしい感覚を得ることが出来ます。個人で行っても出来るではないか、との質問がありそうですが、個人で訪問するのと議会として訪問するのとでは、会えることが出来る人が違ってくるのが利点です。

 さて島根県を訪れるのは初めてでした。印象は余りなかったのですが、島根県でお会いした方は熱意を持って地域振興に努めている方ばかりで、訪問前と訪問後では印象は全く違ったものになりました。今では島根県は素晴らしい郷土愛に包まれた地域であると思っています。

 中でも二日間に亘って視察に付き合ってくれたガイドの大国珠美さんは島根県を心から愛している人でした。準備をしていないところに、「和歌山県が誇れるものは何ですか」とのストレートな問いに対して、即答できる人はそれ程多くないのではないでしょうか。

 大国さんは島根県の誇れるものを幾つも、そして理由を付して話してくれました。まるで自分のことのように。
 例えば、島根県内には宍道湖(しんじこ)という大きな湖があります。ここではシジミが取れることで有名で、通常、島根県の飲食店に行くと、シジミのお味噌汁があります。宍道湖は全国で7番目に大きな湖ですが、大きさではなく郷土の人から愛されている湖としては一番ではないかと思う位です。宍道湖の夕日の素晴らしさ、湖面のきれいさ、沿線を走っていると、確かに惹きつけられるものがあります。宍道湖には七つの珍味があります。「すもうあしこし(スズキ、モロゲエビ、ウナギ、アマサギ(ワカサギ)、シジミ、コイ、シラウオ)」と覚えられるもので、これも郷土の産品として県民は誇りを持っています。食べ物では出雲そばがあります。

 他にもたくさんあります。島根県には空港が三つもあります。地方の県で県内に三箇所も空港があることは誇れることです。そして出雲大社。10月は神無月と言いますが、出雲では神有月と呼ばれています。これは全国の神様が出雲に集まってくるからです。神話の舞台として登場する出雲は神様の国です。出雲大社は島根県が全国に誇る神社です。

 島根県庁横にある島根城は戦災を逃れていることから国の重要文化財に指定されています。和歌山城は戦災の影響で消失していますから残念ながら国の重要文化財ではありません。島根県曰く、歴史的価値は島根城が上回っていると。重要文化財に指定されている日本のお城は9箇所だけだそうですから価値はあります。これも島根県の誇りのひとつです。

 方言。若い人は使わなくなっているようですが、大国さんは自信を持って使っていました。自分の郷土の言葉に誇りを持てなくてどうするのですか。その通りです。言葉は大切なもので、人は言葉によって考え、記し、そして人に伝えています。言葉が変わると人柄も考え方も変わるのです。郷土の言葉が失われていることが地域への愛着が薄れている要因のひとつかも知れません。

 平成19年からは世界文化遺産に指定された石見銀山も誇りのひとつです。指定される前までは、地元の人も余り関心を示さなかったと聞きましたが、世界文化遺産に登録されたことに意義があります。今まで注目されていなかったとしても、登録されたことでその価値は世界から認められたことになります。今までの石見銀山とは違った価値を持つ地域に生まれ変わっています。地域の価値も時代によって変わることが分かるものです。

 有名人では、歌手の竹内まりやさん、女優の江角マキコさん、ファッションデザイナーの森英恵さんがいます。これらの方の実家は今もありますし、郷土の誇りとして皆さんが親しんでいます。
 「島根県が誇れるものは幾つでもあります」。完璧に言い切る力を持っていることは素晴らしいことです。誇るものがなくて他では言えない県と、誇りを持って誰にでも出身地として言える県では将来の可能性は違います。誇りは次の代に伝えられますから伝統として継承され続けます。誇りのない地域からは若い人は出て行くことにつながります。言葉にすれば少しの違いでいすが、その差は果てしなく大きいのです。

 島根県を誇りに思って紹介してくれたことで、すっかり島根県のファンになりました。
 結局、県の印象を決定付けるのは観光施設や自然環境ではなく、誰に会ったかです。タクシーの運転手さん、バスガイドさん、そして県で応対してくれた方、ホテルのスタッフ、観光地で出会った皆さん、これらの全ての人のおもてなしの気持ちが訪れる人にとっての島根県なのです。心の中でそれらの出会った全ての人の印象を総合して、その地域が好きになるかそうならないかを決定します。

 おもてなしとは、金銭でもサービスでもなく、他府県から来た人に対応する地元の人の気持ちだと言えます。気持ちのこもった言葉、態度は全て伝わります。島根県には、島根県を誇りに思っている人がいましたし、その気持ちを伝えてくれる言葉がありました。
 「生まれ育った島根県から出るつもりはない」。大国さんがきっぱりと言える県が島根県です。一人でも熱意を持ってそう言い切れる県は熱いと思いませんか。自分なりに誇れるものがある県もまた素晴らしいものです。地域再生のヒントがそこにありました。

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