364.退くこと
 ある組織の幹部の方が平成18年6月末で退職します。聞いたのが突然だったので驚いたのですが、実は幹部に登用された4年前の時点で腹を括っていたと言います。責任ある立場に起用されることはそれ程重大な決意を持って就任することを意味します。
 その決意を胸に秘めて組織のために尽くしてきたのですが、固執することなく50歳代の若さなのにわずか4年で幹部の座を降りることになりました。当初の意思を貫いた見事な決断です。

「まだこれから指導してもらうことがあるのに、考え直すことはありませんか」との問いに対して、「この職を任命された時から4年間と決めていました。特定の人が権限を持ち続けることは好ましくないし、既にあとに続く人が育っています。十分能力のある後輩にバトンを受け渡す用意は出来ています」と囁くように話してくれました。

 権力は必ず腐敗するのは、長期に亘って同じ人が権力の座にいることから発生します。組織においては常に人が流動化していることが活気を保つために必要なことです。特定の人に長期間権限を与えるのではなく、後に続く人を育て数年のうちにいつでも交代出来る体制を整えておくことが組織を健全に保つことにつながります。
 また「他の数人の幹部もいつでも退任する覚悟を持って仕事に取り組んでいる。彼らも私と同じ覚悟を持ってその職位を受けた筈」であることも話してくれました。

 幹部職を受けると言うことは相当の覚悟を持っているのです。この方達の決意を伺うと、組織として素晴らしい遺伝子が受け継がれていることを感じます。
 最初の一人の幹部が、その地位を4年間と決意して仕事に取り組む姿勢を見せることで、後に続く人達は、その仕事に対する必死さや後輩育成の重要性を肌で感じることになります。そして秘めた決意の通り4年後に幹部を辞し、後輩に譲る行動を目の当たりにした後輩は同じ決意を抱くことになります。これが組織の文化になるのです。

 権限を持つと居心地が良くなるので放したくなくなることは、浅野史郎前宮城県知事もその経験から自らの著書で記していますが、放したくないと執着する気持ちが芽生える時が潮時なのかも知れません。前に向かって進んでいる時なら、執着する気持ちはないと思いますが、その立場で安定してくると守りの気持ちが芽生えてくるような気がします。特に後に続く人達の妨害を行うような行為が見られるようなら、それは老害と言えます。

 それにしても4年で幹部職の地位を退く決断は素晴らしいものです。その年齢と能力からするとそこに居ても誰も文句は言わない筈ですが、見事な引き際の美学です。生きたお手本から確かに、人として学ぶべきことを受け取りました。
 アメリカ大統領は慣例から最大二期8年となっているのは、初代大統領ジョージ・ワシントンでさえ二期で大統領を辞したのだから、それを超えることは出来ないからだと聞いたことがあります。感覚的ですが、巨大な権限を持つ地位にいるのは8年が、権限を持つ同じ地位にいるのは12年が限度のような気がします。

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