341.人的資本と
        金融資産
 2006年前半、株価が上昇しています。金銭欲は誰にでもありますから、平均株価値が上昇している流れの中で金融資産を増やそうと思うのは当然のことです。世の中には少しのお金が必要だと言った著名人がいるように、生活をする上ではサムマネーは絶対必要です。
 ところが投資に関心が向かうにつれてお金があれば人生で何でも叶えられると思い込み、人生でお金が最も大切なものだと思うようになります。投資をゲームと勘違いした人の恐いところです。

 ところが当たり前ですが、お金よりも大切なものがあります。自分自身という人的資本です。自分がこの世に存在して当たり前なので(念のために補足します。生命は有限ですから、私がこの世に存在していることは全く当たり前ではありません)その価値に気付かないのです。
 パソコンで短期的な投資を繰り返すだけで数千万円とか数億円稼ぐことが出来たという報道が度々あると、真面目に働くことは馬鹿らしいと思うことがあります。誰でも簡単に大金を入手出来るかのような錯覚に陥りますが、実際はそうではありません。株の取引は特定の株を欲しい人と売りたい人のバランスが取れて初めて、株の価格が決定されます。

 価格が決定されるということはお金の動きがありますからバランスが取れています。つまり1万円の株取引があると、1万円払い込む人がいれば1万円受け取る人もいる(実際は手数料が差し引かれますが)のです。このように市場は完全にバランスが取れているため、お金を儲ける人がいれば損をしている人もいるのです。一人が1億円儲けたとすると、そこには一人で1億円損をした人がいないとしても、小額ずつ損をした人が数十人いるのです。
 一度マネーゲームの舞台に立つと、損をしたくなければパソコンと睨めっこ状態に陥ります。一日中、家や事務所でパソコンに向かっている生活を想像出来ますか。通常の感覚からすると少しつらいですし、取引金額が大きくなると神経をすり減らすことになります。
 それよりも、金融資産を大切にする余り、大切な人的資本である自分を社会や会社で活かすことが叶わなくなってしまうことが残念なことです。人は社会に存在して社会や他人のために能力を発揮することで存在する意味があります。株を仕事にしている人は、他人の資産を増やすお手伝いをしているのですから社会的存在はありますが、自分がお金を蓄えるためにだけのデイトレーダーの存在には疑問符がつくところです。

 さて会社では人件費の圧縮が経営課題となり、行政機関でも行財政改革で人件費の削減が課題になっています。簡単に言うと、人を減らすことが経費削減に最大の効果があるのです。ここで気付くことがあります。収益を上げるために存在している組織において人件費の割合が高いということは、私達が持っている価値は高いということです。
「世界で一番人件費の高い国に暮らす私たちにとって、最大の資産は自分自身である」そして「労働力を提供するかわりに、会社から定期的に給料という利払いを受け取り、定年時に退職金として元本が償還される債券を購入しているのと同じだ」というものです。

 自分の能力を活かすことが最も価値があり、資産を有効活用している生き方だと考えるべきです。日常生活において「5万円や10万円をなにに投資しようかと考えている場合じゃない。人的資本は年齢とともに減価していくのです。年齢を重ねると共に人的資本は減価していきますから、財テクで少しばかりの金融資産を蓄えるよりも、自分という資産の活用を図るべきなのです。
 早く気付かないと人的資本は年齢と共に減少していく性質のものですから、活用しないまま人生の後半を迎えることになります。「人生の前半では人的資本が、後半では金融資産の運用能力が大きな影響を持つように」なります。65歳を過ぎると人的資本はゼロに近くなりますから、年金か金融資産で生活費を運用する方法を取らざるを得なくなります。
 金融資産の運用に頼らなくても自分の能力でお金を稼げる時代で、何を実現すべきか考えた行動を取りたいものです。

 文中「 」内出典 『臆病者のための株入門』橘玲著、文芸春秋社、2006年4月20日。

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