55.憲法を守るのは誰
 憲法は誰が守るべきものなのですか。この質問に答えられる人は少ないのではないでしようか。
「そりゃ、憲法は国の最高法規だから国民が守るべきものだよね」
 この答えは当然に不正解です。「えっ」と思う方もいる筈です。
 自衛隊の多国籍軍参加などイラク問題が大きな問題となっていますが、これを理解するためには誰が憲法を遵守するのかが問題となり、ここから議論を始めないと主題がぶれてしまいます。

 では憲法第99条を読みましょう。
「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」とあります。
 是非もう一度読んでください。大切なことに気づく筈です。
 誰が憲法を守らないといけないのか。国民という言葉は条文に出ていません。条文では、公務員が憲法を擁護する義務を負っているのです。日本の憲法は国民に憲法を守れとは言っていないのです。国家権力の担い手である公務員が憲法を守らなくてはならないのです。
 つまり憲法は国家権力に向けられたもので、国家権力を制限するために設けられたものなのです。国家権力を制限して、国民の権利と自由を守る役割を担っているのが憲法ですから、一般の法律とは全く思想が異なっています。

 大切なことですから表現を変えて繰り返します。国民が国家権力に対して守って欲しいことを取り決めた約束事が憲法です。国民が主体で国家権力が客体となっています。もうお分かりだと思いますが、法律は国家権力が国民の権利や自由を制限するものですから、憲法は全く主体と客体が違うことは明らかです。
 ですから主体である国民は、憲法を批判したり改正論議をすることは自由なのですが、客体である国家権力は現行憲法を守るだけです。憲法は国家権力を担う人に歯止めをかけるために存在しているのが特長です。

 憲法の存在理由は明らかです。国家権力を握った人たちは、国民の権利や自由を守るよりは、自分達の都合により国民の権利を制限する方向に向かいます。これは人類の歴史が証明しています。権力を把握すると、最初は素晴らしい人であっても長く続くと誤りを犯す可能性を秘めています。
 そのため国家権力を担う人たちが、法律によって国民の権利と自由を不当に制限をしないように歯止めをかけているのが憲法です。近代国家では憲法に基づいた政治を行っていますが、これを立憲主義といいます。立憲主義に基づく憲法は、人の権利と自由を保障するために国家組織の基本を制度化したものになります。その結果、国家権力を制限し、国民の人権を保障するものが憲法といえます。
 ですから、昨今流行している解釈改憲は主権者を無視したものです。わが国の主権者は国民にも関わらず、解釈改憲というのは国家権力が勝手に憲法を解釈して運用していることですから、既に民主主義の原則を壊しています。国家権力による解釈改憲はさせるべきではありません。
 国民主権の前提が無視され民主主義の前提が壊れている今の状態で、国際社会における日本の立場を考慮すると、自衛隊の多国籍軍参加は止むを得ないとはなりません。主権者による国民の意思ではなく国家権力による解釈改憲だからです。
 前提が壊れた議論は思想の争いになりますから、それ以上は踏み込むことは出来ません。憲法論議をする場合、原理原則を前提にした解釈を行う必要があります。
 
 憲法を学ぶとその懐の深さに驚き魅了されます。私の場合伊藤真先生について3年間学びましたから、憲法に関しては伊藤真と同様の価値を持っています。ただし、3年で全ての価値観と解釈を習得出来るほど浅い学問ではないことも注記しておきます。

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