790. 何を残す

人は死んだ後も、子孫がいる限りいつまでも評価されることになります。
「あの家のお爺さんは正直な人でした」と言われるか「あの家のお爺さんは嫌味な人でした」と言われるのかは大きな違いです。子どもや孫が恥ずかしい思いをしないような生き方をしなければなりません。
 人は死んだら骨が残るだけですが、人としての信頼は残り続けます。信頼は残された人にとって大切な宝物になります。徳を貯金しておくと自分は引き出せなくても、子どもの代では、引き出そうとしなくても利息が付いて元金が返ってきます。
 儲けることは悪ではありませんが、それを従業員や関わった人と共有することや社会に還元することをしないと正しいものにはなりません。何故なら仕事で利益を得ることは一人で達成できるものではないからです。必ず助けてくれる人や協力してくれる人の存在があるのです。それを知らない顔をして利益を一人占めすると、必ず社会で悪い評判が立つのです。

 ある経営者は会社には人材を残したいと伝えてくれました。短期的にどれだけ利益を得られたとしても、それを続かせるためには後に続く人材が必要です。人材と信頼が存在するところに長期的に利益が生まれます。
 人は何いつまでも権限のある立場でいられません。創業者であれば何十年と社長であり続けることが可能ですが、絶え間ない仕事に囲まれることになります。上場しているような通常の株式会社であれば二期4年か三期6年程度が社長でいられる期間です。首長や議員であれば4年の任期がありますから、その立場でいる期間は長くはありません。
 その立場にいる内にどれだけの仕事をやり遂げて、引退後も信頼され続けるかが人の評価です。自らが創業したある社長に伺うと、「自分で全てできる範囲の規模の会社であり続けることはそれ程難しくありません。しかしそれでは従業員が成長しませんし、将来の希望も与えることはできません。ですから会社の規模を大きくしようとするのです。利益だけを追い求めて会社の規模を拡大しようとすれば失敗します」とありましたが、幸福を大きく追求することは、従業員を抱える会社の宿命のようです。
 従業員が長く勤められる、勤めたいと思う会社であること。それが良い会社です。遣り甲斐があること。成長を実感できること。安定した給与が支払われること。業績に応じて賞与が支給されること。成果や年数に応じたポストが与えられること。これらは長くこの会社でいようと思えるための条件です。
 経営者がこれら従業員の期待に応えられる会社を作り上げたら、その人は引退した後も、例え死が訪れた後でも、「素晴らしい社長でした」と評価され、後継者指名を間違わなければ、いつまでも残された家族を大切にしてくれます。
 人は死んで信頼を残す。そんな生き方をして、社会に貢献できる仕事の成果を残したいものです。


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