765. トイレの花。その二。
 ある会社の事務所ビル二階のトイレの花が話題になってから数日後。偶然、二階トイレの清掃を担当してくれている女性に会いました。人の噂をするとその人に会うというのは本当です。

 こちらから声を掛けると一瞬、驚きの表情でしたが、直ぐに微笑み返してくれました。
二階のトイレを使用している皆さんが、「きれいなトイレに感謝している」ことを伝えると、大層喜んでくれました。

「自分の仕事をしているだけですよ。ただトイレが殺風景なので、使用する人が少しでも和んでくれたらと思ってお花や人形を飾っているのです」と答えてくれました。

 仕上がった仕事の成果の違いは、ほんの少しの心配りに影響されるのです。特殊なものでない限り、恐らく100対10ほどの差がつく仕事はないと思います。100対90ほどの小さな差で仕事の成果に差が出るのです。努力にしてわずか10の差。それが採用されるか、されないかの差となりますし、人に感激を与えられるか、与えらないかの差になるのです。

 指示された仕事が100%完成してそこで終わりにするのか。そこから10%でも付加価値を付けるか工夫をするかで、仕事の成果を受け取る人の感じ方が違うのです。

 清掃を担当する人によってビカビカに磨き上げられ、汚れていないトイレは、清掃を担当する人にとって完全な仕事なのです。誰からも文句はありません。

 しかしその上、気持ち良くトイレを使える状態に仕上げてくれたり、トイレを心が安らぐ空間に仕上げてくれることは100%以上の仕事です。使用する人が予想していなかった状態にまだトイレをきれいに保ってくれているのです。予想を超えた仕事に人は感激するのです。そして予想を超えるとは、圧倒的に超えることではなくて、少しの気配りでできる仕事で良いのです。

 金箔を貼り付けるだとか、高名な画家の絵画を飾る必要はないのです。その人の気持ちが表れる一輪の花が飾られていることが良いのです。この気配りは、使用する相手のことを思わないとできるものではありません。実施すべき仕事プラス相手を思いやる気持ちが110%の仕事となり、利用者に感激を与えてくれるのです。

 「ただ、きれいなトイレにしたいと思っているだけです」と謙虚な姿勢でした。偶然にニ階の廊下で会って、時間にして数分の話し合いでしたが、きれいなトイレ空間でいるのと同じように、爽やかな気分になりました。

 姿の見えない相手のことを思って仕事をする。少しの気配りと書いていますが、実は簡単なことではありません。特定の人を思うのではなくて、不特定多数の人に快適を提供することは難しいことなのです。それを簡単に、それも毎日やって退けていることが凄いのです。

 「これからも、汚さないようにきれいに使わせていただきます」と話して、その場を去りました。表情と姿勢、そして話し方も爽やかでした。爽やかな仕事は爽やかな人が行っているのです。

 トイレをきれいに掃除してくれる人に感謝する。きれいなトイレに感謝する。この気持ちから始まります。

コラム トップページに戻る

前のコラムへ   /  次のコラムへ