749.隠さない
 誰でもそうですが、自分にとって都合の悪いことは隠そうとします。それは都合の悪いことを隠すことで正当化できるからです。それは当然のことですから自分の内心において、または他人の迷惑を及ぼさない限りにおいては、それで構いません。

 しかし他人の迷惑なるような隠し事をしてはならないのです。

 ある相談事がありました。かなり困っているので話を聞いたところ、うまく行く場合を100としたら、成功するのは5以下だろうと思うような事例でした。事実も依頼者が先に単独で進めて失敗しているのです。

 ですが相手のためになるべく実現させてあげたいなぁと思って、成功に導くための方策を考えました。困難だけれども、権限者を説得することができたら前に進むことも考えられると思ったからです。ですから依頼を受けたことに関して、その権限者と話し合いを行いました。ある条件を満たしたら、この案件を前に進められる感触を得ました。

 そこで依頼者に対して、「正直に、本当の数字を教えて下さい。うまく交渉しますから隠し事はしないで本当のところを示して下さい」と返答を返しました。正直ベースの数字が示されたら、それを元にして必要なものと不必要なものに分類して、可能な限り不必要な分類に仕分ける作業を行えば、案件を成功させる可能性があると感じていたからです。

 数日後、依頼者から数字が示されました。その数字を見て私は、「これなら物事がうまく運ぶ範囲だ」と思い、権限者と作業に着手しました。勿論、案件が依頼者の意向に沿ってうまく進むようにです。

 数字を分析して仕分け作業をした結果。何とか規則に抵触しない数字にまとめることができたのです。「これなら大丈夫」だと思ったところ、権限者も「この数字だったら大丈夫」と回答をもらいました。

 これは歓迎される報告ができると思って依頼者に嬉しい電話をしたところ、予想もしていなかった答えがありました。「実は、この項目に含めるべき実態に基づいた数字がまだありまして・・」。その数字を算入すると、残念なことに規則の範囲を超えてしまいます。そして「それでお願いします」との依頼でした。

 これは残念なことでした。正直に数字を示してくれたものと信じて作業を行っていたのです。示された数字を基にして、仕分け作業をして成功さに導く結果を出したのですが、その作業も結果も意味のないものになってしまいました。依頼を受けた人が隠し事をされると、権限者と協議をした時の前提条件が崩れてしまいますから、同じ結論に至りません。

 それどころか、私が権限者を欺いて、案件をその方向に持っていこうとしたと疑われることになります。「実は算入すべき数字なのに漏れていた数字があります」と、再度作業を依頼しても信用されなくなっているのです。

 案件を規則に当てはめて、規則の拡大解釈をしてもらうことに二度目はあり得ません。権限者はリスクを覚悟して判断してくれるのですから、隠し事をされていると、数字を元にしてそこに導くストーリー展開が変わってしまうのです。

 その前提となる数字が違っていたと話をするとすれば、依頼者と口調を合わせた私が権限者にそう判断させるように嘘をついたと思われるのです。直接、権限者と話をしているのが私であって、決して案件の依頼者本人ではないからです。

 これは厳しい事態です。依頼者は、仮に案件が失敗に終わったとしても、一度限りの賭けに負けたようですから、将来に続く痛手はありません。ところがこれからも権限者にお願いしたいと思っている私にとっては、一度信頼を損ねることは将来に大きくプラスにならない影響を与えることになるのです。

 依頼者は「一度隠し事をしたくらいで何の影響があるのか」と思いますが、私にとっては「一度の隠し事をしたお願い事が致命的になるのです」。

 何かを依頼する人は、相談相手に隠し事をしないで正直に話すべきです。本当の姿が分からないと、案件処理の進め方が違ってくるからです。信頼している相手からの依頼に対しては、不都合な事実を話してもらっても、違法性がなく規則に照らして許容範囲であると判断したら、成功に導くための方策を採るものです。

 少しでも隠し事をされると前提条件が違ってしまいますし、話し合いの内容は全く違ったものになります。それは次につながらないものになります。

 正直に、本当のことを前提に話し合いは進めるべきものです。信頼があれば、その事実を基にして解決方法を考えるのです。

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