741.世界一位
 2009年のウインブルドンテニス男子シングルス決勝は歴史に残る大熱戦でした。深夜に及ぶ中継を最後まで見てしまいましたが、それほどに凄い決勝戦でした。結果はロジャー・フェデラー選手がファイナルセットを制して六度目の優勝と、四大大会通算15勝目を飾りました。ファイルセットは、このままずっと終わらないと思えるほどの熱戦でした。30ゲームを戦い抜いた技術力と体力、そして精神力は表現のしようがありません。2008年のウインブルドン決勝もフェデラーとナダルの歴史に残る決勝でしたが、それをも超える決勝戦が翌年に繰り広げられるとは思いませんでした。

 それにしても、「忘れたものを取り返し」に来たフェデラー選手の一年間の自分との長い戦いを思うと、拍手を贈らざるを得ません。世界一位から世界二位に転落した一年間は精神力を鍛えられたのでしょう。一位の選手は二位以下の選手のことを考えないと聞きます。

 どこまでも突き進める世界一位から、上の選手を追い掛けなければならない二位の立場では、練習方法も周囲からの扱いも、そして目指すべきところも全く違います。二位に甘んじていられないとの強い思いが、一年後のウインブルドンで再び世界一位に返り咲かせたと思います。

 そして四大大会での通算勝利数で歴代一位の記録とともに、スーパースターの地位も不動のものにしました。その分野のファン以上の人から尊敬される人がスーパースターだと思います。テニスに興味がない人であっても、2009年のウインブルドン決勝選にチャンネルを合わせていた人は、最後まで観てしまったのではないでしょうか。途中下車できない熱戦を制した王者の姿はテニス界を超えました。ゴルフのタイガー・ウッズ選手や、バスケット界のかつてのスーパースターのマイケル・ジョーダン選手などのように、そこを超越する選手が時折出現します。

 そんな選手達は、私達に勇気を与えてくれます。フェデラー選手は取り戻すものがあれば、これからの一年を頑張り抜けることを教えてくれました。第五セットの30ゲームは、ここで決めるという気迫が画面から伝わってきて、このゲームで決まると感じたほどです。

 そして優勝インタビューの中で、王者が着ていたTシャツには「終わりのラインはない。まだまだ遠い」と書かれていたそうです。歴代世界一の記録を打ち立てても、終わりはなく、これからも進もうとする姿勢が現れています。現状と結果に満足しない姿勢こそが世界一なのでしょう。もう意識は次の全米オープンに向かっている筈です。そして全米オープンに勝つために必要なことを、ウインブルドンの戦いの中から見出して修正してくることでしょう。二位の選手は一位の選手を目指しますが、一位の選手は二位の選手を見るのではなくて、自分の到達すべきところを目標にするものです。相手との戦いを超えた意識を持っていることは強みです。自分をベストの状態に置けたら良いのですから。

 しかしいつか、この記録に挑戦する選手が現れると思いますが、後輩のためにも簡単には届かないレベルにまで記録の壁を高くして欲しいものです。最高の選手から学び続けるためにも現役で記録を更新して欲しいものです。

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