707.志
 志を持つことは何歳になっても大事なことですが、年齢を重ねるにつれて志を持つことに気後れします。それは残りの時間が限られてくるから、志を持っても届かないかも知れないと思う気持ちがあること。今更気恥ずかしいと自分に言い聞かせるのか、他人を気にするのか分かりませんが、そんな気持ちがあることなどが原因です。
 そこで登場したのがUさんです。以前から知っている方なのですが、二年前に60歳を迎えて定年退職しています。現在は所謂、出向して現役時代に手掛けたプロジェクトに継続して参加しています。勿論、現役ではありませんから、組織におけるUさんの役割は経験を活かした事業推進を陰で支えるものです。あくまでも側面で現役である後輩を支え、導く役回りに徹しています。このプロジェクトにはUさんの経験が要だと長が判断したものです。

 そのためプロジェクトを成功に導くことと、経験を後輩に受け継がせることが使命です。そしてプロジェクト完成までの時間が区切られていますから、あと一年で仕上げにかからなければなりません。来年、Uさんがこれを仕上げた段階で63歳になっています。そこで第二の人生に向かうのかと思っていたところ、予想と全く違う回答がありました。今まで経験を活かして仕事を仕上げた後は、活動の領域を違った舞台に移したいと言うのです。そしてそれは全く経験のない分野での活動なのです。始めることに遅すぎることはありませんから、Uさんの志を応援したいと考えていますし、やるからには何としても挑戦が成功して欲しいと願っています。

 Uさんと話し合っている中で「少し迷っている部分がありましたが、ようやく決心できました」とニッコリと話してくれました。志が大きいので、誰にも話すことができなくて自分の中ではこの道に進もうと答えは出していたのですが、決心するに当たって第三者の意見が必要だったのです。
 私の考えはいつも同じです。「志を持って本気でやり遂げようとすれば決心すること」です。例え高い志であっても自分で想像が可能でやろうと思えることですから、届く範囲のものなのです。思ったことを実行に移すためには、決心をして口に出して宣言し、準備に取り掛かることです。その時点で右肩上がりの道筋はできています。

 問題はスタートの時に発生する摩擦です。スタートの時に一番力が必要です。自分の意思だけではエンジンに点火することが難しいことがありますから、そんな時はエンジンに点火してもらえる人が必要なのです。それはしっかりと意見を聞いてくれて、志を後押ししてくれる人なのです。志の火を消してしまうような意見を言う人や、決心を鈍らせたり遅らせたりする意見を言う人を相談相手に選択してはいけません。スタートを切るタイミングがずれてはいけないのです。

 志を持って決心することは自分ですべきことですが、エンジンに点火する役割を担ってくれる人の存在が不可欠です。志を理解してくれて実現に向かわせる人は、スタート時の摩擦係数を小さくしてくれます。繰り返しますが、志を持って本気でやり遂げようとすれば決心することです。最も摩擦が生じるスタートを乗り切れたら、自分に内蔵されているエンジンの性能を信じて行動し、それを継続することです。志と行動が止まらなければ、確実に志に近づくことができます。

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