694.一新
 友人の借金の連帯保証人になっていたKさん。その友人が事業に失敗して失踪したため、借金返済がKさんに周ってきました。Kさんは事業をしていますから、その場所から逃げることはできはません。返済額は月額34万円。月々の返済を続けてきましたが、平成20年11月以降、世界的な経済危機の影響を受け、Kさんの事業の売上が落ちていました。年が変わり、いよいよ毎月の返済が厳しくなりました。

 Kさんが相談に来た時には、もう生活に疲れきった様子があり、暗い顔か好転することはありませんでした。自己破産や利息のダーク部分を精査するなどの方法を提案したのですが、貸付者とKさんの信頼関係があることから、何としても返済をして責任を果たしたいとの本人の強い希望があり、方策に行き詰ってしまいました。

 父親が築いた事業を絶えさせる訳にいかないので、事業を継続しながら借金返済を続ける必要があるというのです。しかしもう限界で、自己資金が底を突いたため、毎月の売上よりも借金返済額が上回ってしまいました。いよいよ事業継続も生活も苦しい状態になりました。

 今後の方策として三つの手段を提案して、その場は別れました。何度か電話でやりとりした後、一週間が経過しました。心配ですが、方法を示すことができても、最終的に今後のあり方を決めるのは本人以外にありません。

 そして一週間後、連絡がありました。予想外だったのですが、Kさんの声は明るく弾んでいました。「もう吹っ切れました。一からやり直す覚悟を決めました。前向きに仕事をして借金を返済するために、今まで以上の仕事に取り組みます」というものでした。

 そして気分を一新するために事務所を移転させ、最初から出直すことに決めたようなのです。勿論、そう決めたからと言って借金の総額は変わりませんし、事務所を移転させても売り上げが変化することはありません。でも気持ちが違うことが大きいのです。

暗い顔をして「もう駄目で。やっていけない」と思うのと、「もう一度やり直す」と覚悟を決めたのとでは、その後の事業展開は大きく違っていきます。

 経営者が覚悟をきめることは、相当強い意思を持っていることです。その時までは、現状を表面的に見て右往左往している感がありましたが、今は事業の見直しを図り、無駄を洗い出して必要経費を抑え始めました。あとは、今後の経営計画を策定し収支見通しを算出し、支援していただける金融機関と協議を行うことです。

 負の連鎖を年度末で清算し、新しい事業所と事業計画、そして強い意思をもって新しい年度を迎えることになりました。
 新年度を迎える言葉には強い力がこもっていました。弱々しかった声が明るく大きくなっていました。

 気持を変えたら言葉も変わります。前向きな言葉に変えると発する声に力強さが宿ります。笑顔で声が大きくなると行動が変わります。行動が変わると今日が変わります。今日が変わると未来が変わるは確実です。気持を変えて言葉にすると、未来は変わるのです。

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