628.会社の文化
 金融危機を受けて厳しい経済状況が続いていますが、和歌山県内の中小企業は一段と経営環境が悪化しています。夕方からある企業の幹部と話し合いを行い、そのことを改めて実感しました。

 会社の資金繰りが厳しくなっていることは直接的な要因ですが、厳しい中においても売り上げ目標は高くなり、只でさえ、乾いた雑巾を絞っているような状況なのに、更に目標値が上積みされることで会社への忠誠心が極点に落ちていることが間接的な将来不安要素であることを感じました。

 従業員さんの態度から会社との付き合い方の変化が分かる様です。事例をあげると、会議で意見を述べていた従業員が全く発言しなくなったこと。会社への愛着や業績を伸ばしたいと思っている内は辛口の意見を発言していたのですが、経営陣が難局を前にうろたえている姿を見せていることから、諦めの気持ちが強くなっているようです。何を言っても将来に向かう姿勢が見えないと感じた時、従業員は黙して語ることがなくなります。

 意欲の低下は他にもあげられます。先輩や幹部から仕事や態度に関して注意しても、聞いて受け入れることをしなくなったそうです。素直な気持ちはこれから伸びるために最も必要な要素です。素直な気持ちは心がきれいな空気のような状態ですから、人の意見を受け入れる下地が整っているといえます。ところが素直さがなくなると心に煙が充満したような状態となり、有難い忠告であってもそれを受け入れる余地がなくなります。

 他人の意見を受けいれるだけの空間を確保しておくことが素直な状態ですが、そうでないと、どれだけ良いことを聞いても全く心に沁み入りません。結果、心も行動も自分の範囲で収まり、継続的に成長することは難しくなるのです。
 議論は喧嘩とは違います。激しくても良いのですが、相手の意見を聞き良いところは受け入れる姿勢が必要です。言いあって物別れになり疎遠になるようでは議論とは言いません。議論が終わればノーサイドですから、お互いその前よりも高めあった状態になっている必要があります。

 議論の後に一方から「はいはい、分かりました」と全く聞く余地のない態度があると、何も生みだしていないのです。このように表向き議論のようであっても、一方が相手の言うことを「全く聞かないぞ」という姿勢の場合があります。結果として聞く方は「はいはい、分かりました」と答えてその場を立ち去ることになります。
 言った方は発散して気持ちが良いかもしれませんが、聞かされた方は無駄な時間をこれ以上過ごしたくないと思っています。
 議論のあとに納得して、清々しい気持ちになる時があります。それがお互いを高めあった議論であり、議論する前よりもお互いのレベルは向上しているのです。議論の後に「お互い頑張りましょう」と握手して、その場を別れられる議論をしたいものです。相手を受け入れる気持ちがある議論は気持ちの良いものです。

 良い会社の仕事場では、素直に議論できる空気があります。この場合は、先輩から後輩へ、上司から部下へと会社の伝統が受け継がれていくのです。伝統とは、長い時間をかけて築いてきた会社の文化なのです。従業員は長く会社に留まり、後輩だった人はやがて先輩となり、何年後かに先輩の教えを後輩に伝えることになります。
 それが出来ていない会社では従業員の在籍年数が短くなり、その結果、何年経っても会社の文化が育たなくなっています。仕事とは、収益と効率だけで計り知れないものがあるのです。

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