610.書き留める
 熱い戦いを繰り広げた2008年夏の北京オリンピック。夜に帰って疲れていても見てしまいますから、この四年に一度の式典はそれだけ魅力があるのでしょう。

 中でも水泳で八冠を達成したアメリカのマイケル・フェルプス選手が、全ての種目を終えた後のコメントに心が打たれました。
 「多くのことを夢見て、書き溜めてきた。そのすべてを果たせた」。フェルプス選手は、小さい頃から思ったことをメモに書き留める習慣を持っているそうです。頭で描いたことをそのままにしておけば、それを現実のものにすることは難しいのです。どれだけ素晴らしいアイデアでも企画でも、書き留めておかなければ直ぐに忘れてしまいます。そして一度忘れてしまった思いつきは、再び自然に浮かんでくるものではありません。

 「実現したいものリスト」の方策があります。自分が生きているうちに実現させたいことをノートに記しておくと、それを実現させることが可能だというものです。勿論、書くだけでは実現は困難ですから、ノートを見返し不足していることを書き足していくことや、実現したものを消し込み、また新しい思いを書き込む作業の繰り返しが必要となりますが、自らの思いを実現させるために重要な手段です。

 24歳と若いフェルプス選手が実現するためのノートを活用していたのは驚きですし、技術的に訓練以外にも精神的な取り組みをしていたことが、短絡的かも知れませんが八冠に結びついたような気がします。

 そしてもうひとつのコメントです。
 「今でも僕はママと言い合うんだ。「マイケルは成功しない」といった中学校の先生がいたね、と」。
 推測ですが、中学生のころかにフェルプス選手は、オリンピックに出場してマーク・スピッツ選手(水泳競技で七冠を達成したアメリカの選手)の記録を破ると周囲に言っていたのではないでしょうか。中学生の夢のような話を現実的で夢の素晴らしさを知らなかった大人は相手にしていなかったようです。青少年に対して最もしてはいけない否定の言葉を使った中学校の先生にも負けないで少年時代の夢を達成できたのは、否定を上回るだけの強い意思を持った夢を夢の実現リストに書き込んだからです。消えていく言葉を上回るのはいつまでも残る言葉の力です。先生の心ない発言を消し去り、自分の夢を信じて書き留めたことで、夢へのエンジンが可動したのです。夢のエンジンが可動してから比較的早い約10年後、夢が現実のものになったのです。
 
 自分の思いや志は、気を付けておかないと、あっと言う間に消え去ります。成し遂げたいことを自分が忘れないで実現させるためには、書き留めておくことは最低限必要なことです。人の意見よりも強いものは、自分の意思を具体化させるためのエンジンとなる夢を書き留めておく作業です。

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