601.自分の心
 2008年夏、北京オリンピックの熱戦が続いています。この大会で日本人選手は、アテネに続いて二連覇を果たしている選手が多いような気がします。しかし大部分の選手は生涯ただ一度だけのオリンピック出場だと思います。4年間の全てを一瞬に賭けている姿には心が打たれます。
 中でも水泳の北島康介選手の二大会連続二種目制覇の偉業は強く印象に残るものですし、オリンピック史上に残る彩りがあります。この瞬間を、VTRを通じてです目撃できた世代の一人としての幸運に感謝したくなりますし、北島選手から勇気をもらいました。

 そして予想していたことですが、二種目二連覇の後の引退は寂しい感があります。ここを目指して調整して結果を出し、今が全盛期の泳ぎを見せていますが、その頂点に立った瞬間に引退がある現実は本当に寂しい感じがします。改めて頂点にいる期間の短さを感じます。北島選手のシドニーオリンピックンからアテネオリンピック、そして北京オリンピックまでの8年間は挑戦と栄光、重圧の中の再びの挑戦、そして歴史を刻む世界一と栄光の瞬間、そして引退。どれだけの期待と不安に立ち向かってきたことでしょうか。

 全力で泳ぐ200mは今回で最後。頂点を極めて終わりを迎える瞬間を、「祭りの後の寂しさ」と表現した紙面がありましたが、夏の暑さの頂点を迎えた時に秋の気配を感じるのと同じような切なさがあります。全盛期に下りの気配が迫っていますし、秋から冬の時期には頂点を迎えるための準備を行うのです。選手としての北島選手の季節は終わろうとしていますが、これからは、世界一を獲得してそれを守った誰も経験したことのない財産を次の世代に伝える大きな仕事が待っています。それは生涯途絶えることのない仕事となることでしょう。
 本当に素晴らしい夏の瞬間を見せてくれたことに感謝いたします。2008年夏、様々な夏の姿が訪れることだと思いますが、北島選手の夏はその中でも最も輝く夏の瞬間だと思います。

 ところで人は誰でも夢があります。その夢が実現出来る人と出来ない人がいるもの現実です。その差は何なのでしょうか。自分の夢を妨害するものはたったひとつです。妨害するたったひとつのもの、それは自分なのです。夢を妨害するのは他人でもなく環境でもなく自分なのです。
 夢の途中で自分には出来ないと思ってしまうこと。夢の途中で諦めてしまうこと。夢の途中で夢を忘れてしまうこと。これらは他人が邪魔をしているのではなくて、自分の心が妨害しているのです。

 北京オリンピックを見て思うことは、夢を実現させた選手達は全て自分の心に打ち勝ってきた選手達だということです。オリンピックは絶対に自分との闘いだと思います。それはここに至るまでの大会で、他の選手に勝つことを目指すような小さなことではないからです。他の選手に勝つことよりも自分の限界を伸ばすこと、その結果が記録として残り、代表選手として世界の舞台に進むことができるのだと思います。
 「勝つための全部は全て自分の中にある」。テレビコマーシャルで流れていましたが、自分のことは自分だけが決められることに間違いありません。
 自分の限界を自分で決めて途中で諦めていたら栄光の舞台はありませんから、諦めなかった選手だけがここに立っているのです。2008年夏、そのことを選手は教えてくれています。

 記録として残される数字や文字ではなく、笑顔と涙などのそれ以外の要素が私達の心に残されています。
 いつか北京オリンピックが、歴史の中のたった一つの記録として残される時になっても、今夏の目撃者達は単なる歴史としてではなく、目の前の出来事としていつまでも自分の壁を破るためのドラマとして心に刻んでおきたいと思います。

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