562.就職
 中学校を卒業した生徒を積極的に雇用している会社があります。中学校や職業安定所から新卒者雇用の依頼があると、T社長は面接をして可能な限り雇用をしています。

 平成20年春の採用の時も、先生に連れて来られた中学生の二人はT社長の前で緊張していました。先生から生徒を紹介する時に「まじめな子なので、よろしくお願いします」と言ったところ、T社長は「まじめな子はいらない。私はやんちゃな子が好きですから」と答えると、二人の中学生はホッとした表情を浮かべました。T社長は、二人の服装が似合っていないことから普段と違う服装と違うことや、髪の毛を赤色に染めていたのを慌てて黒く染め治していることに気付いていたのです。

 メッキは経験者が見るとメッキに過ぎないことは直ぐに見破ります。経験者に立ち向かうには普段の格好と素のままの自分をさらけ出すことが必要なのです。
 まじめでないことを見破られた二人は安心して、T社長の言うことを聞き、自分のことを話し始めました。面接の結果、二人の採用が決定しました。
 平成20年4月、入社した二人に対して会社は教育担当を貼り付け、会社人の前に社会人としての教育を施しています。それは礼儀です。朝、会社に来ると「おはようございます」。先輩が帰社すると「お疲れ様でした」。帰りは「お先に失礼します」などの簡単な挨拶です。

 最初、二人は挨拶が出来ませんでした。中学校ではやんちゃで通っていましたから、挨拶などしなくても存在感がありそれで問題はなかったのです。ところが社会人となると、中学校で一目置かれるやんちゃだったことなどは全く通用しません。認めてもらうためには挨拶から始めなければなりません。4月の終わりになって、ふたりは先輩やお客さんに挨拶ができるようになりました。

 そして月末、二人に対して会社から初めての給料が支払われました。T社長は「初めての給料は一日、神棚にお供えしなさい。そして次の日にお礼を行って母親に渡しなさい」と訓示しました。
 ふたりはそれを実践したのです。ふたりの母親から「息子から給料を預かった」と連絡を受けたT社長はふたりを認めました。他の社員と同様に、四国や東京への出張に同行させることにしたのです。

 そして入社から三か月経つ7月からは挨拶に続いて感謝の気持ちを持つことの教育を施そうと考えています。挨拶に始まって、次に感謝の気持ちを持つことは既に社会人になっている私達にとっても大事なことです。
 中学校卒業生を採用したことに関してY社長は、「15歳の子どもにはこの国を支えられる将来があります。人よりも3年間、或いは7年間も先に社会に出ることは、それだけ社会人の常識や資格を習得できる環境に身を置くことになります。二人に対しては資格を取りなさい、そしてその費用は会社が持ちますし、会社を辞めても返せとは言わないと話しています。人より早く社会に出た分、実力を身に付けて欲しいからです」と話してくれました。

 春には挨拶もできなかった二人は、将来の希望を持つことで元気よく仕事に励んでいます。7年前、15歳でこの会社に入社したある先輩社員は、現在22歳ですが独立しました。わずか22歳で自分の会社と従業員を持つようになったのです。先輩の存在や社長からの期待、そして先輩社員からの温かい教育がふたりの希望を後押ししています。

 希望を育むのは、励ましと期待を受けることです。やんちゃだからと言って無視される存在のままでは、希望を持つことはできません。T社長はふたりを育てる環境を作ることから将来のこの国を支える人づくりを行っています。

 ところでT社長に聞きました。「最初から中学校を卒業するふたりを採用するつもりだったのではないですか」。笑いながら「ふたりがまじめじゃないこと位分かっていたよ。誰かが引き受けて育ててあげないとね」答えてくれました。
 余談ですがT社長は学校を卒業した後に経験を積んで独立、アメリカで会社を興して成功、社長業を信頼できる人に任せてアメリカの大学に入学、卒業。現在は日本で会社経営をしています。

 人生は均一ではありません。自分が学びたい時期に学べば良いですし、仕事をしたいと思った時に仕事に就けば良いのです。要は、自分の思ったことを必要な時期に行動に起こすことが大事なのです。

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