554.一周忌
 和歌山市にある紀州徳川家縁の寺院、報恩寺。平成19年4月28日が命日のAさんの一周忌が執り行われました。親族の皆さんと共に御参りをさせていただきました。本堂の雰囲気は清らかで、言うところの無心にさせてくれる空気がありました。その無の状態にある空気が御経を、力強くそして優しく心に沁みわたらせてくれました。約1時間経過するのがとても早く感じられました。

 高僧からは、一周忌にこのように大勢集まってくれるのは、お人柄と生前の活動の凄さにある、との主旨のお話をいただきました。去る人を形容する言葉はたくさんあるように、いつまでも他人の心に残ることは簡単なようで本当に難しいことです。Aさんは、本業を通じて和歌山県に尽くしただけではなく、政治活動や経済界の活動にも積極的役割を担っていましたし、ボランティア活動にも熱心でした。私も何度もボランティアでご一緒させていただいたことを思い出します。

 Aさんとお話をした最後が、平成18年夏のボランティア活動の時でした。子ども達を支援する活動の途中、「腹減ったな。食べに行こうか」と近くのマクドナルドに一緒に向かいました。Aさんは「今日は時間がないから早く食べられる店にしたけれども、終わったら、食事会をするので待っておいて。今日はご苦労さん」と話してくれました。

 そして秋が過ぎ、季節は移り変わって冬。不思議なことにAさんからの連絡はありませんでした。そんな冬の一日。Aさんが入院していることが伝わってきました。風邪を拗らしただけなので、直ぐに治ると思っていたのですが、そのまま言葉を交わすことなく、この世を去ったのです。何度も食事をして和歌山県のことを話し合ったAさんとの最後の場面がボランティア活動でしたし、最後の食事がマクドナルドだったことも、全く飾らないAさんらしいと微笑みそうになりました。

 あれから二年が経過しました。時の過ぎ行く早さに驚くばかりです。春の季節、Aさんがまいた種子意思は確実に次の時代に受け継がれています。
 会社は素晴らしい後継者が守ってくれています。政治活動においても、今日数名の議員が駆けつけていたように、Aさんが和歌山県を思う気持ちを受け継いでいます。そして恵まれない子ども達を支援するボランティア活動は、今年の夏も開催されます。Aさんのいない夏ですが、しっかりと活動を行います。今度はスタッフとマクドナルドを食べながら、子ども達が大きくなった次の時代の話をしたいと思っています。

 時代は今を生きる私達が創っています。手引書や教科書が作っている訳ではありませんから、これから始まり、そして何度も繰り返される毎日の出来事は、私達が刻んでいくのです。もしかしたら平成の時代の一部分を構成するかも知れません。

 悠久の歴史であっても、人類の一日一日の積み重ねの結果であることは間違いありません。宇宙人がやってきて突然、歴史を刻んだ筈はないのです。そう考えるなら、平凡に見える今日の一日が歴史の一部分を構成しているのですから、無駄に過ごす訳にはいきません。無駄な一日の積み重ねでは、後に書き記すことはないから歴史にはなりません。大きなことではなくても、自分が大切に過ごせたと実感できる一日を過ごしたいものです。充実した一日の積み重なり、それが歴史なのです。

コラム トップページに戻る

前のコラムへ   /  次のコラムへ