545.現場体験
 和歌山市内にある九つのライオンズクラブが合同で、市内にある片男波海岸の清掃活動を実施しました。夏場に賑わう海水浴場のある場所から約1.5km離なれた先に和歌川の河口と海が交差していますが、この辺りに信じられないような大量のゴミが滞留しているのです。河川から流れ着いたゴミと海から打ち上げられた様々なゴミが、下の土が見えない程溜まっていました。ペットボトルとタバコの吸殻が溜まったゴミの双璧で、他には注射針や椅子、ゴルフクラブのセット、そしてボートなどもありましたから驚きです。

 ライオンズクラブ会員の清掃により、海岸はきれいに蘇りました。また一年後には同じ状態に戻るのでしょうが、誰かが清掃しておかないと海岸にゴミが蓄積されるばかりですから、追いかけっこのような状態ですが意味のある活動だと認識しています。

 それにしてもこれだけ大量のゴミが海岸に蓄積されていることは、このまちに暮らす人のモラルの問題です。自分の周囲がきれいになれば、後はゴミがどこに辿りつこうと関係ないと思う気持ちからのポイ捨て行為ですが、その結果、海や河川の汚染となってやがて自分のところに戻ってきます。それどころか子どもの時代に、水の汚染を引き継ぐことになりますから恐ろしいことです。
 ゴミの問題は気持ちの問題と大いに関係しています。人の気持ちがきれいになればその町はきれいになります。毎年行っているライオンズクラブによる海岸の清掃活動の時間が短くなる程、和歌山市に住む人の気持ちがきれいになっていくと思います。

 海岸の清掃活動によって汚された海を見たことで環境問題に取り組む必要性を痛感することができます。環境問題の重要性は毎日のようにマスコミで取り上げられていますし、国際機関や国、そして地元の地方自治体などでも啓発活動が盛んです。それなのに解決に向けた動きが遅いように感じます。その理由は簡単なことだと思いました。

 北極や南極の氷が溶け出しているとの記事を読んでも、それを体験していないから実感しないのです。ある国では都市の砂漠化が進行していると報道されても、その場所に行っていないためそのことを実感しないのです。ヒマラヤやアルプスの万年氷河が溶けて、その麓にあるまちが洪水の被害に会っていると報じられても、現場に行ったことがないため、実感できないのです。共通していることは、現場を知らないので危機的状況を実感できないことなのです。つまり自分で直接視ない限り、媒体からの情報だけでは実感することがなく、危機的状況を回避するための行動に移さないのです。これが環境問題の解決が進展しない最大の理由です。

 ですから解決するための方法はその逆を実行すれば良いのです。北極や南極の万年氷河が溶けている現場に行くこと。都市の砂漠化や洪水被害が起きている都市に行って確かめることなのです。でも多くの人がそれを実行することは困難です。
 最善の次の方法は、それらの現場経験がある人から直接話を聞く機会を持つことです。間接的に聞くと現場の雰囲気の伝わり方は弱くなりますから、ボランティアや調査研究で現場に行ったことのある人から直接、現場の様子と被害現場に直面してからの考え方の変化について聞くことなのです。
 直接体験するか体験した人から直接話を聞くことが、自らを行動に駆り立たせる要因となります。

 海岸の清掃活動も同じで、これだけ汚れた海岸を見たことと、きれいに清掃した経験をしたことで、ペットボトルや空き缶をゴミ箱以外の場所に捨てることはあり得ませんし、自分の行為で自然を汚すことは絶対にすることはありません。それほど環境問題の現場を知ることと自然な状態に戻すことの行動経験は、その後の考え方と行動を変化させます。そしてこのことは、全てに通じることだと思います。

 人は現場を知ることで真実を知り、真実を知った上で行動したことによって、その後の考え方が変化します。考え方が変化することによって、また行動が変化するのです。現場体験による思考の変化、そこから行動の変化の連鎖が起きると、変化した行動によって今ある現場の状態が変わっていきます。

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