510.バタフライ効果
 以前、北京で蝶が羽ばたくとニューヨークで嵐が起きる、とコラムでも書いたことがあります。当時、少し流行していたグローバル時代を表す新しい考え方だと思い記憶に留めていました。ところがこの「バタフライ効果」仮説は1961年の研究から誕生した古い考え方でした。マサチューセッツ工科大学の気象学者エドワード・ローレンツの疑問から発したものだったのです。少し長くなりますが、以下引用します。

 「1961年、ローレンツは、真空管式コンピュータで気象のシミュレーションを行っていた。気象の状態を12個の変数で表す研究であった。ある日、枯葉研究結果を検算しようと入力し、コーヒーを飲みに出て一時間後に帰ってきた。ところがその間にコンピュータは、一回目とは似ても似つかない計算値を打ち出していたのである。一回目は0.506127と入力していたものを、再入力のとき深く考えずに、下三桁を切り捨てて0.506と入力した。そのわずかの違いがち、計算過程で急激に拡大され、まったく異なる計算値を打ち出したのであった。―中略― ローレンツは「初期値に対する鋭敏な依存症性」に気づいたのであった。初期条件のわずかな差が時間とともに拡大して結果に大きな違いもたらす。これが「バタフライ効果」仮説である。バタフライ効果発見のきっかけは、4000分の1の誤差だった」のです。(出典『プロ弁護士の思考術』P148〜P149。矢部正秋著。PHP新書。2007.1.29)

 如何でしょうか。初期値が少し違っただけで全く違った結果が導かれること。計算だけではなく、私達の行動においても同じことが言えます。同じような行動を取っても、その結果が違うことは良くあります。単純モデルで比較します。
 事例A 。毎日と同じ時刻である朝8時に家を出て会社に向かいました。予定通り定刻の9時に会社に到着しました。いつものように会社から一日の仕事が始まりました。
 事例B。朝8時5分に家を出て会社に向かいました。いつもと一本違う電車に乗ったところ、本日訪問しようと思っていた取引先の責任者に会ったので、朝から情報交換を行いました。その結果、同じ地域で生活していたことで親近感が増し、以前から交渉案件であった取引が成立、契約に至ったのです。

 上記は単純すぎる事例ですが、ほんの少しの行動の違いが全く予想しない結果を導いたのです。しかし私達は計算通りの仕事を遂行し計算通りの結果を得ている訳でもなく、思ったとおりに今日を生きているものでもありません。ほんの少しの偶然で行動も結果も、そして人生さえも左右されているのです。意思と偶然の積み重なりが今日一日の結果となり、その結果が明日の仕事や人生を違ったものに作り替えて行くのです。

 私達は計算通りにならないことを悔やみ、そして嘆くことがありますが、意思を持った行動に偶然が入った方が違った結果を出してくれることに感謝すべきなのです。小さな揺らぎが大きな結果の違いとなって現われてくれます。目指すべき太い線のベクトルがあると、入り込んだ偶然がその矢印以上の良い結果を導いてくれるのです。偶然を修正しようとするのではなく、それに応じて行動を修正することで、より次元の高い結果に向かうのです。偶然を嘆くよりも、偶然に期待した方が良いのです。

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