482.まちの器
 地方都市に企業が来てもらうための条件は、単に道路やインフラ、利便性などの整備だけでは事はなりません。県民性や地域としての文化度、教育の熱心さなどの要素も重要な要因として考えられます。企業は従業員とその家族の幸せのためにも存在していますから、文化的な生活を過ごせない地域や教育熱心ではない地域には進出を見合わせることになります。

 企業の担当部署は、進出を考えている行政地域の文化や歴史、住む人の人柄なども調査しています。企業進出する地域が、誇れる地域であって欲しいと思うのは住む人と同じ気持ちです。企業に進出してもらうために、まちづくりから始めることが肝要です。

 ですから企業誘致を成功させるためには、まちづくりから始めることが不可欠です。まちづくりを怠っている地域に企業が進出してくれることはありません。まちづくりとは、住みたいと思う地域、住んで良かったと思えるまちのことを指します。単に民間企業の進出計画を組み込んだ計画を策定して、その計画通りに、決して間違いの無いように進めるだけでは魅力は生じません。計画にはイレギュラーが付き物で、そのイレギュラーをどう処理するのか、まちの器が試されます。

 まちはトップの器以上の大きさには育ちません。ですから、基幹産業に来てもらうためには、企業のトップが進出と言う経営判断が出来るようなトップが存在していることや、まちづくりの理念がしっかりしていることが必要です。何百人、何千人の従業員を抱えた企業が未知の県に進出する判断をするのは、補助施策や立地条件だけではないことはお分かりいただけると思います。幸せな会社生活が送れるまちであるのか、家族と幸せに暮らせるまちなのか、などを吟味されるのです。従業員がつまらないと思うようなまちに工場を立地しても、社会に良い製品を贈れないのです。

 まちづくりの基本はシンプルです。自分の子どもがこのまちで育って、このまちで仕事をして、このまちで家庭を持ち、そして大人になった自分の子どもがこのまちで子どもを育てることを望むようなまちを創ることです。
 自分が住みたいと思うことは当然のこと、子どもにも住んでもらいたいと思えるまちを築くことが、まちづくりなのです。
 そんな大切なまちづくりをするのは、第一には当該地方自治体のトップです。第二に地元商店街などのトップです。第三が県庁などの行政なのです。まちづくり三法により平成19年11月末を以って、1万u以上の大型商業施設などの郊外への立地は規制されています。

 つまり本来守られるべき権利である、経済活動の自由を奪っている法律が施行されている訳です。本来、経済活動は自由が原則で、一部規制をかけるのが筋でした。しかし国がコンパクトシティを目指す方向に転換したことから経済活動は原則規制、例外規定を設けることに逆転しています。そのため従来にも増して、トップのまちづくりに賭ける思いが試されることになります。
 まちづくりに規制があるからトップは難しい判断をしなくても済む訳です。規定通りに粛々と仕事をすれば良いのです。しかし既に郊外への大型店舗の出店規制を受けて民間の動きは変化しています。東北地方の都市や山陰地方の都市では郊外からも大型店舗が撤退し始めたため、中心市街地は錆びれたままで、郊外からも大型店舗がいなくなる状況が生じているのです。基本的に郊外に立地している大型店舗の敷地は賃貸借契約ですから、撤退することは容易になっています。まちづくりに理念の無い地域では中心市街地が依然としてそのままで、郊外からも大型店舗が消え去る事態になっています。これらの都市の郊外に広がった住居への入居者は唖然とするばかりだそうです。

 結論です。まちづくりから始めて企業立地活動があります。魅力的なまち、住む人が礼儀正しく優しいまちに企業はやって来ます。企業が来てまちが栄えるのではなく、まちづくりが出来るような元気なまちに企業が来てくれるのです。私達がまず何をすべきか、分かります。

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