445.2007年夏の参議院選挙
 参議院議員選挙の投票日。既存の壁のブロックが崩れるように音を立てて元の形がなくなったような感覚がありました。時代の節目とは、このようにダイナミックなこともあるのでしょうか。

 今回の選挙の争点は何点かありました。年金記録不整備の問題、恒久減税とも言われた定率減税の廃止、閣僚の不適切な発言による大臣や任命権者の資質に疑問を感じる問題、地方と都会の格差問題などが主なものです。
 いずれも私達に身近な問題ですが、そこに問題が噴出している現状に対して、今、声を上げなければ何時声を上げるのかとも言うべき事態だと思います。給与所得者にとって、平成19年6月の給料明細を見た瞬間のこと、或いは銀行へ行って生活費を引き出そうとした時の振込み額を見た瞬間のことは忘れられないのではないでしょうか。

 事前には地方への税源移譲のために市民税が上がりますが、その分所得税減税があるので、税額は変わらないと聞いていたのですが、実際の受取額や感覚は違うものでした。実際の差し引き額は、私は他の人の分を検証していないので分かりませんが、定率減税の廃止による税負担感は相当なものがあったと推測出来ます。 100人の給与所得者がいれば100人全員が不満感、不信感を持ったのではないかと思います。また年金で生計を立てている人にとっては年金制度への不信感、つまり政府に対する不信感は相当なものですから、現役世代も年金世代にも不満が渦巻いていたように感じていました。

 つまりこの国で生活をしている多くの人が現在の政策に不満を感じているとすれば、それは是正する必要があると考えるべきです。今月、その意思表示の機会が与えられたのですから、現在の税制や年金制度のあり方を良しとしない方向に力が働くのは自然なことです。一票に力がないと思っていた私達ですが、今回のように不満から来る怒り、そして怒りから来た将来のあり方を考える機会、そして投票行為への流れ。自分の投票した結果が国全体のものとして示された感覚を有権者得ました。前回の総選挙、当時の小泉総理による郵政民営化を問う劇場型選挙での民意の反映と併せて、一票の力がこの国を動かすことを体感した有権者は、この感覚を忘れることはないでしょう。

 一票では何も動かないので投票に行っても無駄だと思っていた有権者は、実はそうではなかったことを実感している筈です。権力者にとっては、有権者に眠っていてもらいたいものでしょうが、この国の将来を自分達で決めた候補者に担ってもらうことが民主主義の姿であることを知った私達は、この後も決して後戻りすることはないでしょう。自分達の一票で国を動かせることを体感し、多くの人がその感覚を身に着けたのですから、これから日本の民主主義は欧米型に近づいていくような気がします。

 民意を感じることを忘れると、必ずその仕返しがあることが改めて知らされました。権力者は常に謙虚であること、それを忘れるようなら退場です。
 さて日本は中央集権国家として戦後発展してきましたから、官僚の力と能力は最高レベルにあります。さらに公務員には思想的に中立であり、無色透明が求められていますから、政権を誰が担うことになったとしても事務的に混乱することはありません。問題はリーダーです。同じ流れが続くと澱むこともありますから、流れを変えることは必要です。

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