352.困難なのに清清しさ
 世の中色々な出来事があるものです。心から信頼しているある住職さんから連絡をいただいたので、住職さんが相談を受けている女性、つまり夫から虐待を受け続けている女性の方とお会いしました。
 心身とも困憊している様子でしたから、良く勇気を出して、頑張って夫から逃れてきてくれたと思うばかりです。彼女からは信じられない話を伺いました。

 ここでは内容には触れませんが、強い立場の人が弱い立場の人に対して、立場を利用した許せない行動をしていることに憤りがあります。社会的地位がある人は、言うまでもなく社会の規範となる行動が求められています。医者や教師、政治家や僧侶達は、人格的に人から尊敬される人であり続けなくてはなりません。それが出来なくなるとその位置から降りていただく必要があります。尊敬されると言うことは、自我を抑制して社会規範を守り社会的に正しい行動を行うことが求められるのです。

 自分の立場が立派だから、何があってもそれに従うのが当然とするのはおかしな考え方ですし、相手が逆らえないことを知っていて威圧的態度に出るのは非人道的です。虐待を受け続け数日前、やっとの思い出脱出してきた勇気があれば、これから道は必ず開けます。
 人は帰る場所があること程幸せなことはありません。人は悩んだり、苦しんだり、困ったり、精神的に落ち込んだりするとこは多々あります。そんな時、帰ることが出来る精神的に温かい場所があれば、羽を休めて傷ついても再び立ち上がることが出来ます。世間体があることから人は、社会では弱音を見せないで頑張り続けます。でも時々本音を見せて休める場所が欲しいのです。

 配偶者や両親のいる場所がそれに該当します。ところが、そこで気を休めることが出来なかったら人は追い詰められていきます。長い時間それが続くと誰でも精神的に不安定になるものです。精神的不安定から脱出する方法はただ一つ。安心出来る人と安心出来る場所を求めることです。受け入れる側は、どんな経緯があろうとも心を開いて相手を受け入れることです。それが自分の子どもであれば何も心に引っ掛かることはありません。子どもが20歳になっても、30歳でも50歳でも60歳でも、生きている限りは親と子です。子どもは親に甘えたいものですし、親は子どもが可愛い筈です。いつまでもその関係を大切にしたいものです。

 しかし相談出来る人がいることは救われるものです。相談の扉を開くことで問題の半分は解決出来たものだと聞くことがあります。問題だと分かってその場に立ち止まれなくなり、勇気を出して解決の扉を叩くことが第一歩であり、問題解決に大きく前進することになります。後は信頼出来る人達が最善の方法を導いてくれます。
 人は毎日の中で大切なものを忘れてしまいます。明日の仕事、大切な会議、大事な商談など直ぐ前にあることに視覚も心も向かっています。でも楽しく仕事が出来るのは、自分を含めて家族が健康であること、信頼出来る人に囲まれていること、温かく守ってくれる人達がいること、帰れる場所があるからです。
 これら一つでも崩れると仕事どころではなくなります。崩れても仕事を優先させる考えも否定もしませんが、納得も出来ません。まず精神的に安定していることで良い仕事が出来るのです。通常の状態なら人は信頼出来る人達に見守られながら安定した道を歩くことが出来ます。しかしほんの些細なことで狂うことがあります。その場合、引きこもっていないで信頼出来る人に相談することです。全てを打ち明けた時、問題は解決に向かいます。心の傷は消えないでしょうが、確実に時間が心の痛みを和らげてくれます。

 苦い経験をした後に立ち直ってからが本当の人生です。同じ過ちを繰り返さないように強く、そして優しく歩き始めることです。何事が起きても絶対に大丈夫。この気持ちを持ちたいものです。
 今回の件に関しては、チームを結成して立ち向かうことにしています。
 それにしても素晴らしい方達です。困っている人を助けるために日曜日でも相談を受けている住職さん、昼間の講演会講師を終えて駆けつけてくれた心理カウンセラーさん。お二人とも私が心から尊敬して信頼している、言葉にならないくらい素晴らしい方達です。 陰湿な虐待そして背後に潜む影に立ち向かっているのに、相談を終えた後は何故か清清しい感覚に浸りました。

 本日の相談を解散した後、心理カウンセラー宅にお礼に赴きました。丁度、その方が帰宅した時に会うことが出来てのですが、そこで話して驚いたことがありました。それは心理カウンセラーになるまで20年間、育て導いてくれた恩師の方が本日午前2時に亡くなられていたのです。本当は直ぐにでもお悔やみに行きたいところだったのに、今朝、恩師の奥さんに電話を入れてくれていました。「直ぐにでもお悔やみに行きたいのですが、大変な虐待の相談を受けているので、それが終わってからにして下さいね」
 それに対して恩師の奥さんは「あなたは困っている人を助けるのが使命でしょう。主人も人を助ける行為を優先させることを望んでいる筈ですよ」
 こんなやり取りがあって、私達の相談場所に駆けつけてくれていたのです。突然の相談だったのに本当にありがとうございました。

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