344.10年前
 何かを残しておくと何年か後にそれを見つけた時に当時の空気が蘇ります。平成8年から平成9年にかけて作成された「きりぬきぃーず」という、当時広報の仕事をしていた女性二人が作成した小冊子があります。たまたま平成18年5月の連休初日に棚を整理していたところ発見しました。
 この冊子は女性の視点で会社を取り巻く状況を分かり易く従業員向けに説明したものですが、読み返してみると10年前の社会情勢が良く分かります。

 その頃、女性にパンツスタイルが飛躍的に伸びていると解説した記事が掲載されています。女性従業員は制服で仕事をする時代から私服での勤務に変化する過渡期でした。当時の企業では、女性は補助的な仕事が中心であったことから制服のスカート姿だったのですが、パンツスタイルに変化していったことは、そのまま女性が責任ある仕事を任されていった過程を示しています。
 活動的で動き易いスタイルに開放されたことで、仕事の質も変化していったとも考えられます。変化が起きた10年が経過すると、当時は珍しかった女性のパンツスタイルが、今ではビジネスで当たり前のシーンになっています。

 そして企業がインターネットの使用できるパソコンを従業員に設置し始めたのもこの頃だったことが分かります。「パソコン拒否症候群に悩む中高年族が増えて、イントラがリストラに追い打ちをかける時代が来るかもしれない」そして「ホームページを持つのが当たり前」と記載されています。パソコンに苦戦していることが分かる川柳も掲載されています。「ウィンドウズ 窓はあけたが しめられず」「大容量 使う頭は 超軽量」など、慣れないパソコンに向かっていた姿が蘇ります。

 女性と情報の分野はこの10年で良い方向に大きく動いています。ところが10年前と変わっていない分野の記事も掲載されています。
 和歌山市にある淡島神社に納められる「針」が年々減少しているのは女性が針を余り使わなくなっている時代背景が見られます。使われなくなった針の有効活用の提案がされています。それは「辞めざるを得なくなった市長さんや、逮捕されたセンセイ(議員のこと)」に送ったら良いというものです。その心は「うそついたら針千本飲ます」ことから来るものですが、政治家と利権に関してはこの10年間進歩していないことを感じてしまいます。

 平成18年も大きな社会問題になっている少子化問題。平成9年の記事では「出生率が史上最低の1.42を記録したこともあって少子化問題が社会の大きな関心になっている」と問題提起されています。表面的な理由は、女性の晩婚化と女性の未婚率の上昇が挙げられていますが、更に問題を掘り下げています。
 少子化の原因を女性だけに求めるのは疑問を感じるとして「子どもを生み育てやすい社会を本気でつくる責任がある」としています。具体的には「保育施設、税制、年金、教育、雇用管理などあらゆる面で仕事と家庭の両立が容易になる政策や制度が充実」すべきだと提言があります。今も解決されていない問題として引きずっています。

 他にも、消費税が3%から5%に引き上げられたのも平成9年4月だったことや、エネルギーサービス会社がESCO(エスコ事業)という言葉が誕生したのもこの頃です。
 アメリカで良く見かける言葉が「At your own risk(自己責任)」ですが、日本ではまだ浸透していませんでした。そして「日本でも自己責任が問われる時代がやってくる」と締めています。
 
 主なポイントをまとめてみましたが、10年前に遡れば社会は絶えることなく継続していることが良く分かります。女性の社会進出、インターネット、少子化の問題、政治家のモラル、財政難から来る消費税引き上げ、環境ビジネス、そして自己責任。当時産声を上げたものが今では成長して社会で欠かせないものになっています。
 これからの時代を見通すには、現在あるものの中から社会で成長していく何かを見つけて対応することです。10年の簡単な資料からでも現在が見えています。現在から10年後も見通せる気がしてきました。

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