308.交錯する思い
 平成18年度、和歌山市の大きな課題だった2つの公立幼稚園廃園問題と地方鉄道の貴志川線の廃線問題が決着しました。少子化に伴う児童減少のため定員に対する入園者が不足し、いわゆる充足率が低い2つの公立幼稚園が廃園することになったのがひとつの課題。 
 単に幼稚園を廃園することだけが問題ではなく、地方自治体が少子化にどう対処するのかこの先の考え方が見通せること、公教育のあり方の問題、行政改革と教育問題との兼ね合いの問題、そして和歌山市内で子どもを思う保護者達による初めてとも言える大きな市民運動のうねりが起きたことで、確かに市と行政を取り巻く空気が変わったことが大きなポイントでした。
 そして貴志川線の問題。通勤と通学手段、そして通院や買い物の移動手段としてこの地方鉄等を残さないと沿線の皆さんの生活手段が奪われることになるため、鉄道存続に向けた市民運動となったのです。
 奇しくも、公立幼稚園廃園問題と貴志川線廃線問題など、そこに暮らす人にとって大切な問題を、行政や大手企業だけで決定されるのは受け入れられないと判断して市民運動が起きたのです。従来は行政からの指導には従うことや、環境変化に対しては諦めのムードがあり積極的に対応しない空気があったのですが、直接的に被害を被ることになる園児の保護者や沿線に住まれている方は、これらの問題は納得できないと意思表示して行動に移したのです。
 同じ時期に起きた二つの市民運動は民意の高まりを示すものでした。自分達が地域に望むことがあれば黙っていないで行動をしようと思い、リーダーを中心にまとまり拡がりのある活動となったのです。どちらの市民運動のリーダーも周囲から推挙されてその立場に立ったのですが、熱意と素晴らしい行動力と諦めない気持ちが周囲の皆さんを盛り上げていきました。
 これらの活動から数年経った平成18年3月末。二つの公立幼稚園は廃園となりましたが、ひとつは跡地に幼保一貫の統合施設が建設されることになりました。もうひとつは幼稚園に隣接する公立小学校の老朽化した校舎と体育館、プールの建て替えを行うなど成果を見せました。
 貴志川線は、県と貴志川線の路線がある和歌山市と紀ノ川市が鉄道会社から資産を買い取り、新しく事業主体となる和歌山電鉄に資産を提供、新事業者が平成18年4月1日から事業を継続することに決定しました。そして存続活動に関係した方は、地方鉄道のあり方と都市計画も含めて学ぶことが出来たのです。
 
 そして平成18年春。卒園式、そして終園式と廃園式、新しい地方鉄道の誕生と、新しい季節が訪れました。新しい季節には、市民運動をした皆さんの精神的に成長した姿が映ります。
 しかし寂しい思いも交錯しています。廃園した幼稚園に通園していたあるご家族は、これを契機に和歌山市の自宅を売却して別の市に移り住むことになりました。引越しの理由は、父親が貴志川線沿いの自然に囲まれた環境を気に入って家を建てたのですが、貴志川線の経営主体が変更となったうえ通園していた幼稚園が廃園となり、この場所にいる理由がなくなったからです。とても好きな環境で生活していたのに、廃園に関して最後まで納得出来る説明を聞くことが出来なかったことで和歌山市を去ることになったのです。いつもとても熱心に子どもを思う気持ちを聞かせてくれたのに、父親の心に影を落とさせてしまったことに無念さを感じます。結果が人を傷つけてしまう、大きな課題である程、影響は多大です。
 そして子どものため幼稚園存続に全力で立ち向かった方からは「もう二度と市役所の3階(和歌山市議会があるフロアです)に行くことはないでしょう」と意見をいただきました。本当に寂しい言葉です。
 この方も、議会定例会そして教育民生委員会には欠かさずに傍聴に来てくれましたし、毎議会存続のお願いに市議会を訪れてくれていました。熱心な姿勢からは、こちらが教えられることが多くありました。つい最近までの出来事ですが、既に懐かしく感じます。
 ここにある建物も行き交う人も変わらないように思いますが、季節が変わると出会いと別れがあります。でも顔を合わす機会が少なくなっても、同じ季節で活動を行った皆さんと心のつながりは保っておきたいと思うばかりです。
 大きな課題に立ち向かった経験を、新しい場所で、巡り来る季節の中で、新しい人との交流の中で活かせることが成長の証です。お互いに成長した姿で再び会いたいものです。

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