281.現場の空気
 沖縄県のキャンプ・シュワプ(Camp Schwab)に隣接しているのが辺野古(へのこ)海岸です。日米間で協議している同じ沖縄県の普天間飛行場を移転させる計画がありますが、軍用飛行場の移転候補地です。
 キャンプ・シュワプの敷地は20,627u、米国の海兵隊が常駐しています。地元の方によるとキャンプ・シュワプの敷地からの眺めは一等地で、米軍基地がなれければ国民宿舎などでも建設したいような風光明媚なところです。

 キャンプ・シュワプと通常の海岸は鉄線で土地が区切られています。鉄線の向こうは米軍基地管内なので立ち入ることは出来ません。監視モニターが二台設置されていることから、鉄線に近づくと約15分後にミリタリー・ポリスがジープで様子を見に来ます。
 同じ日本の国土なのに米軍管内には入れないことは不思議な感じがします。鉄線から向こうは日本政府も関与できない敷地なのです。しかしこの米軍用地の賃借料、年間約2,055百万円を日本政府から地主に支払っています。

 辺野古への軍用基地移転に地元が反対している理由は幾つかあります。日本の国土面積の0.6%に過ぎない沖縄県なのに在日米軍施設面積の約75%が存在していることから、これ以上受け入れられないこと。普天間の移転先としてまた沖縄県内が候補地になることは容認し難いこと。そして自然豊かな海岸をコンクリートの滑走路にすることは、沖縄の自然を次の世代に継承出来ないことを意味すること、などからです。
 特にこの海岸は珊瑚の群落がある他、生物多様性の高い海域であること、日本の天然記念物ジュゴンの生息地であることから守るべき海域だとするものです。日本のジュゴンは絶滅危惧種で、辺野古はジュゴンが食するシー・プラントが群生していることから、今の環境を保持しないと生存出来ないのです。ジュゴンはシー・プラントだけを食する哺乳類であるため他の食べ物は受け入れません。辺野古の海はジュゴンが生息出来る北限とされていることからも現在の環境を守る必要がある訳です。

 普天間基地飛行場代替施設としての辺野古崎沿岸案ですが、これは沖縄県だけの問題ではなく日本全体として考えなくてはならない問題でもあります。安全問題が国会でも論じられていますが、軍事基地が存在していない地域では関心が薄いのが現実です。
 自分達が生活しているまちに軍用基地が存在していない場合、実際に現地を見ないと米軍基地の問題は別世界の出来事のように思えます。軍事基地がない地域では通常、安全保障問題は関心外ですが、軍用基地が日常生活に存在している地域では最も関心の高い問題となります。
 海岸が鉄線で境界が区切られている光景は軍用基地のない地域に暮らす人にとって非日常のものです。しかし沖縄県で暮らす方にとっては日常であり現実のものです。日米問題や安全保障問題については国レベルで協議されるものですが、現地を訪ねることで沖縄県以外の人が無関心でいることは出来ない問題だと認識しました。
 人は自分の周囲のことが最大の関心事ですが、国政レベルの問題にも関心を払う必要があります。関心を持っても私達は何も出来ないかも知れませんが、国家が決定する結果に対して国民である私達は責任を持たされることになります。

 どのような問題でも賛成する人と反対する人が存在しています。現地を見る、その問題に関わっている人の話を聞くことで、自分なりにこちらの意見が正しいだろうなぁとの感じが発生します。物事を見極めるには自分で感じることが大切で、自分に関係のないことの全てを権限者に白紙委任するのとその問題を少しでも考えるのとでは、例えその問題に関して結果が変わらないとしても、次の行動が変わってくるような気がします。
 行動が変わると次に発生する問題への対応の仕方は変わりますから、経験を基にしたより正しい判断を下せることになります。やはり現場を見る、現場で人と話しをする、現場の空気を感じる、そして自分なりの考えを持つことが大切だと思うのです。

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