136.日本一への挑戦
 痴呆対応型共同生活介護施設をグループホームと言います。一つの生活環境(1ユニット)が8人で共同生活を行います。和歌山市は高齢化社会を迎えていて介護施設が充実しています。
 和歌山市内にあるグループホーム「太陽のおうち」は素晴らしい施設です。第一に今までのグループホームの概念を打ち破っています。懐かしいと感じるような家庭環境が、施設においても環境面でも再現されています。オーナーの考え方は、ゆったりとした雰囲気の下で穏やかで安心した日を過ごせる環境作りです。そのため看護歴・介護歴十分なベテランと、高齢者が大好きな若手でチームを構成しています。
 オーナーの室みち子さんは元看護士で、大病院の看護婦長、私立病院の責任者を歴任されている方です。看護士が単独でグループホームを開設しているのは、和歌山では初めてのことです。室オーナーは安定した地位を投げ捨て、本当に高齢者が生きがいを持って生きるためのお手伝いをしたいと考えた末、平成16年11月自ら理想のグループホームを作り開設しました。医療と福祉を経験した人材がスタッフとなっている施設は以外と少なく、ここでは専門知識と思いやりを持った運営をしています。
 オーナーは、太陽のおうちを日本一のグループホームに仕上げて、その運営方法を全国に発信して新しいグループホームのスタンダードにすることを夢に描いています。和歌山市から全国一を目指している姿は私達に希望を与えてくれます。
 施設面では、ホームの設計から材料の選定など詳細に至るまで、自ら勉強して良い素材を取り入れています。概観は入居者の生活の利便性向上のため平屋にこだわり、外観は普通の家となっています。入り口も家の玄関と同様に家族とお客さんを迎え入れてくれる仕様で、クリムトの絵と色とりどりの花々が迎えてくれます。壁材料も床面も本物志向のこだわりがあります。机や椅子も聞かないと分からないけれども一流品を配置しています。食堂にはカリモク製品を配置しているのですが、それに気づく人は少ないのです。製品が傷つく恐れがあるのに何故配置しているのですかと尋ねると、お金をいただいて暮らしてもらっているのだから、安定性があり座り心地の良いものを提供するのが経営者として務めだと答えてくれました。使用している本人も気付かない所にも配慮しています。
 スタッフにもオーナーの理念を浸透させています。最初が肝心で理念を掲げてそれを実現させるための運営をしないと、グループホームを経営し始めた意味がないと言い切っています。理想の施設とするために、制約のある社会福祉法人ではなく有限会社にしています。社会福祉法人に認定されると補助金など優遇され経営は安定するのですが、理想を追い続けるために会社形態としています。会社の登記や資金融資を受けるのは全てオーナーがやり遂げました。財政面でも社会保険労務士を雇わないで自分で事務手続きを行っています。その心は経費節減ではなく、苦労をしてでも一通り経験しておかないと経営が分からないからです。医療と福祉には精通していても経営は別問題です。それを避けて通っているようでは日本一になれないと自分には厳しく律しています。
 
 痴呆症の人は私達よりも感覚が優れていて、相手が思いやりの気持ちを持っているかを感じ取ります。自分のことを思ってくれないとそれが分かるようで、心を開いてくれなくなります。オーナーの下にそう感じた入居者が寄ってくると、スタッフに厳しく指導しています。スタッフを信頼してくれないのは思いやりの気持ちがないからで、現場に近い人がオーナーよりも信頼されていないのは恥ずかしいことだと伝えています。
 痴呆は精神面が左右します。人間扱いされなかったり知的好奇心を満たされないと痴呆が進みます。ところがスタッフが入居している方を人間として尊重して接し、文化的なプログラムを取り入れると精神的に満たされて痴呆は改善します。精神の充実が体にも影響を及ぼし改善している事例も出ています。

 室オーナーの夢は日本一のグループホームを築き上げ、そのノウハウを全国に発信すること、そして新時代のグループホームの基礎を作って次の世代に引き継ぐことです。そのために民間経営者で研究会をつくりお互いに研鑽を積み重ねたいと願っています。施設設計、運営面、スタッフの教育、入居者への接し方、痴呆の改善事例など、新しい施設ですが引き継ぐべきノウハウは蓄積されています。
 
 ひとつの世界で成果を収めた後、セカンドキャリアに挑戦している姿には感銘を受けます。経験と挑戦し続けるスピリットを活かして、和歌山市から日本一を目指した挑戦が始まっています。

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