110.さをり織り
 さをりとは、城みさをさんが開発した誰でも簡単に自己表現が出来る手織りのことです。
 城みさをさんは1913年生まれの91歳の女性です。元気の秘訣は、頭と足を使うことだと聞きました。91歳の今なお、さをりを現役で指導するほか講演活動を行っていて、無いものは経歴と師匠と物欲、有るものは夢と情熱だと言いますから素晴らしい人生です。
 さをりの素晴らしいところは、誰でも創作活動を通じて自己発見が出来ること、精神を開放してくれる効果があることです。さをりの特徴は、身体障害者や社会的ひきこもりや自閉症の方々も参加すると効果が出ることにあります。作品を仕上げる過程で自己に気づく、そして作品を仕上げて達成感を感じる、作品を発表することで人前に出ることで自信を持てる循環があります。
 さをりには、障害を抱えた方々も大勢参加しています。それは、さをりは表現が下手な人でも内なる自分と向き合い内面を表現するので、精神的な社会的問題解決の手段としても効果があります。自分を見つけることで成長し、自信を持って社会に向き合うことにつながります。

 さをりの創始者である城みさをさんとの懇談では、人生の大先輩から充実したお話を伺いました。
 自分と出会うために外に視点を向けても駄目なこと。自分の本質は内面に潜んでいるのだから、自分と向き合う他に発見できないものです。自分と向き合うとは自分の本性が形となって現れる創作活動に取り組む必要があります。さをりは最も手軽に自分発見が出来る手段のひとつです。

 仕上がった作品は全て違って良いのです。師匠と弟子であっても、さをりは一つとして同じ作品はありません。全員性質は違うのですから異なるものが仕上がるのが自然です。 
 内面を表現することが創作活動ですから、思ったままを大胆に表現すれば良いのです。自分の生き方や考え方を作品に込めたら良いので、自分よりも経験のある人の事を気にする必要は全くありません。人生も同じで、他人の気に入られるように生きることは馬鹿げています。人と違って当たり前なのです。
 
 熊本県の女性は、子どもを亡くした経験から無心でさをりを織りました。その作品を身につけて登場したのですが、城みさをさんはそれを感じ取り、心の中を表現し織り上げた素晴らしい作品だと講評しました。さをりは自分と向き合う手織りですから、作品を見ると性格や心が分かります。

 ある大学の教授は、ゼミで元気のない生徒がいるとさをりを習わせるそうです。すると三週間もすれば元気になって戻ってくるそうです。全てコンビニエンスの時代、自分と向き合う機会が少なくなっていますから、芸術に向かうことは意味があります。
 自己発見への道は人間の源泉に戻ることだと、今大会の実行委員長である城英二さんは話しているように、芸術創作活動は自分と向き合う機会となります。さをりの目指すところはアートを超えて人間の存在を発見することです。
 次は世界文化遺産に指定された高野山で発表会を開催したいと意欲的です。仏教の思想と芸術が昇華した後に来る悟りは類似点があるようです。

 今まで関わった人に加えて、これから出会う人のために自分を磨くことが生きる意味です。他人に影響を与えるためには、今の自分の枠からはみ出る必要があります。過去からの延長線上にいる小さな自分では、他人に影響を及ぼすことは叶いません。将来で会う人のためにも自分の生き方を高めておくことです。

 母親の能力をこの世に残してあげることが最大の親孝行です。長い人生の中で身につけたものを子どもに託すのが親です。貴重で愛情のこもった親の能力を、一代だけではなく次の世代に継承することが後に残される私達は忘れてはなりません。人の世は他人の経験に経験を積み重ねることで発展していきます。前世代の経験を消し去ることは親にとっても社会にとっても罪なことです。

 価値観が多様化した今の世の中、そう簡単には他人に理解してもらえません。最低限、感性を磨いて自分を発見しておかないと誰が分かってくれるのでしょうか。芸術や創作活動に取り組むことは、そのまま自己発見につながります。

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