107.加治隆介の議
 最近、友人から推薦され借りて読んだのが「加治隆介の議」です。作者は弘兼憲史さんで、今なお続いている人気の「島耕作」シリーズの作者です。友人は「政治のことは分かりませんがこのような政治家がいてくれたらと思います」と言って貸してくれたのです。全20巻ですが、読み始めると引き込まれていきすぐに読破できました。書き始められたのは1991年で1998年に書き終えていますから新しい本ではありません。しかし今でも主人公加治隆介の生き方は参考にすべきものがあります。
 
 ストーリーは次のようなものです。
 衆議院議員の父を持つ加治隆介は、父の突然の死に伴いその後継者として国会議員になります。最初から国のあるべき姿を描いていたので、選挙で勝つことだけを目標として利益追求している理想を持たない保守の旧勢力とは一線を画します。国民の意識も変化し政治家に利益誘導を求めない有権者が増えてくると、政治家が入れ替わり時代は変わって行きます。
 主人公は、従来の政治家とは異なり理想とする政治姿勢を公約に掲げ選挙に挑みます。抽象的で何を実現したいのか分からないような公約を掲げている政治家に対抗して、日本として考えなくてはならない外交や防衛問題にも言及していきます。そこには地域に利益をもたらすものはありませんから、最初は支持を得られません。
 一般質問で政策を提言するためには調査と研究する時間を要します。真面目に勉強するほど有権者から姿が見えなくなることになります。反対に地元に顔を出してばかりいる人は、勉強する時間がありませんから殆んど政策提言や質問は行いません。つまり政治家として真面目に活動すればするほど、選挙対策が出来なくなるというジレンマに陥ることになります。
 しかし有権者の良識ある判断を信じて具体的に日本の理想像を語り、有権者を利益誘導型の政治から決別させていくのです。

 作品の中でも、地域への利益誘導や自分の周囲のことだけを考えるライバル候補者を最後まで主人公と対照的なライバルとして役割を持たせていますが、主人公が新しい時代を予感させる総理大臣になる時には、役割を終えて落選させています。つまり志を持つ政治家だけが新しい時代を築けるのであって、古いタイプの人はその役割を終えているとの作者からのメッセージです。
 作者は「今の若い国会議員の方々はイデオロギーや政党はあまり大きな意味を持っていません。多少意見は違っても、日本をよくしようという志のもとに頑張っている、加治隆介のような人がたくさんいるのです」と述べています。政治家や官僚など延べ500人以上の人に取材をした結果から来た言葉です。中央では志を持って国の将来を見据えているようです。
 権限を中央に集中させていた体制に終わりを告げ地方分権が進展していますから、既に地方も実力が試される時期に入っています。有権者と地方の政治家が理想と志を持つことで、将来のある地域になることが出来ます。

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