105.文化功労賞
 文化活動に優れた功績を残した方に贈られる賞に「文化功労賞」があります。イメージ的には、日本の伝統文化を体得し表現している方や伝統的な作品を世に送り出している方などが表彰対象になっています。
 平成16年秋、洋菓子部門で駒井良章さんが和歌山で初めて表彰されました。洋菓子職人さんが表彰されたことで、洋菓子部門が文化活動として認識されたことを素直に喜びたいものです。
 駒井さんは洋菓子を製造し始めたのは今から30年程前です。お菓子工房兼店舗はわずか三坪でした。お客さんに背中を向けながらバックヤードで製造し、前面にあるショーケースで販売していたのです。
 ご夫婦二人で創業したため、寝る間もなく働いたと言います。それは夜、仕事帰りの会社員がこの店の前を通ると仕事をしていた様子が伺え、翌朝通勤でこの店の前を通るとまだお菓子を作っていたことから、寝ないで働いていると評判になったのです。
 このように創業当時、夜は午前3時頃まで働き少し寝た後で早朝から洋菓子作りに取り掛かるという生活でした。
 でも店を始めたばかりの駒井さんは、この時既に目標を「世界一のお菓子職人になる」ことを掲げていました。素材にこだわったため、当時価格が少し高かったのですが味が評判となり人気が出ました。従業員さんが一人増え二人増え、ケーキ製造に関わる人が増えても品質を落とさないように徹底したのです。
 「私が作ったケーキを買いに来てくれるのだから、どのケーキを食べていただいても同じように満足できる味を提供」することを当時からモットーにしています。一時期にティラミスケーキが流行した時でも、ティラミスケーキを自分流に研究し続け、納得がいくまで店頭に出しませんでした。ようやく職人として納得できるティラミスケーキが完成した時には、このケーキの流行は既に去っていました。
 今ではティラミスケーキを販売しているところは少ないのですが、このお店では人気商品として今でも製造されています。これは流行を追って真似をしたものではなく、同じティラミスケーキでも中身が違うオリジナルなものに仕上がっているためです。
 食品の冷凍機器が発達した現在、前日の夜にケーキを製造して冷凍しておいて翌日店頭に並べるところもあります。これでも品質には何の問題はないのですが、このお店では二階に工房を設置しているため、当時の朝に製造したものを店頭に並べています。一年間休みなく開店していますが、これもお客さんの満足を第一に考えているからです。いつでも新鮮なケーキを味わっていただくため、職人さんは交代制をとり製造しています。
 駒井さんは今もお菓子の勉強を続けています。洋菓子ですから本場はヨーロッパです。日本人の好みがあるため味や形状をそのまま取り入れる訳ではないのですが、伝統のある本物だけが持つ何かを発見し取り入れるために、毎年同じお店に視察にも出掛けています。
 スポンジはドイツ、素材はイタリア、見せ方はフランスなど、それぞれ特徴があるのでそれを感じ取る感性とそこから学ぶことが大切です。
 日本の洋菓子に日本文化の扉を開いた駒井さんは、当初の目標「一番になる」ことを達成しました。本人は達成したとは思わないと謙遜していますが、30年での達成は短いような気がします。洋菓子で文化功労賞受賞は初めての快挙ですから一番とも言えます。次の目標はいよいよ世界一です。
 大切なのは大きな目標を持つこととその思いを持続させることです。一流の域に達するという当初掲げた目標を手繰り寄せるのに30年もかかるのですから、私達も持っている思いに関して簡単に見切りをつけるような結論を出さないことです。思いは達成するまで持ち続けることです。

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