平成15年12月8日(月)
B.平成15年12月
 和歌山市議会一般再質問内容
 答弁いただきましたので再質問をさせていただきます。
 答弁の中で「本市の場合は全国的な動きに乗り切れていない。」とありましたが、国の動きと地方経済は、必ずしもリンクしていないという認識が欠けていると思います。
 まず、地域経済を考えるに当たって、国の経済政策を認識すべきだと思いますので少し述べます。
 今わが国で起こっていることは、アメリカとイギリスでは、はるか以前から起こっていることで、この20年ほどの間に更に大きく加速されていることと同じですから、構造改革といっても日本オリジナルなものではなく既にモデルがあるものです。
 その改革の先にあるものは市場化と金融化です。この特徴は、金融業が最大の潜在的な輸出産業となり、伝統的な製造業に代わって国際競争力の中心的な担い手になることにあります。このネオリベラリズムの特徴は大きく分けて次の三つです。
 
 一つは、行政が老人福祉から大幅に手を引くという決定をすること。
 二つ目は、競争至上主義であること。
 三つ目は、アダムスミスの普遍原理への回帰であること。
 ご存知の「神の見えざる手。」です。これは、利益を追求する個人間の競争が神の見えざる手に導かれて、官僚の計画が生み出すよりも多くの幸福をもたらす、という考え方です。
 
 この流れはすごく分かりやすいものです。少し大雑把ですが、市民革命直後の行政に求められた役割と同じです。即ち、行政は市民の安全だけを守ってくれたらそれで良いから、後の活動は全て市民に任せてくれという考え方です。
 
 しかし、この考え方は支配者から自由になった市民が、自分達で全て運営する方が公平になると思って築いたシステムだったのですが、やってみると君主に代わって資本家が力を持ってしまい貧富の差がついてしまったので、これはいけない、それなら行政に権限を持たせて富の再配分をしてくれた方が良いとなったのです。その後、時代は夜警国家から福祉国家へと流れたのです。
 
 この大きな資本主義の流れから幾つかの主義が出てきました。もう10年くらい前に、経済に関わった人なら誰もが読んだベストセラーがありました。「資本主義対資本主義」「七つの資本主義」です。ここでは、アメリカ型資本主義と日本、ヨーロッパ型の資本主義についての比較が述べられています。どちらが優れているかの決着は今もついていません。
 
 当時、ある経済学の教授と話したことで、今も明確に覚えていることがあります。誰でも若い頃は、実力勝負のアメリカ型社会に憧れるものです。私は日本、ヨーロッパ型には物足りなさを感じていましたので、これからの日本の進むべき方向性として、アメリカ型即ち市場主義を主張しました。
 
 しかしその教授は「社会システムはその国の国民気質、特性に応じて築かれてきたものだから、急激な転換を図ると大変な事態になる。例えば、能力のある若い人は良いけれど中高年の雇用問題、賃金格差、失業問題が顕著になってくる。セーフティネットを考えておかないと社会は混乱すると思うよ。」というものでした。
 今の状況を見ると、正にそのとおりだと思います。学問の上にたった政策立案の大切さが今になって良く分かります。
 
 さて、それではいくつかの視点を持って個別の問題に入りたいと思います。
 規制緩和によって外資系企業が増加していますが、雇用にどう影響しているかです。
 外資系企業は約3,000社。外資系企業の都道府県別立地状況は、東京都に68.9%、大阪府に9.1%、神奈川県で8.9%で、この上位三県で86.9%を占めています。外資系企業の投資増加で雇用が拡大されているのは大都市だけで、地方の雇用創出には殆どつながりません。 
 このように国の施策であるグローバル化の進展は、地域間格差を拡大させるだけです。
 地方自治体の経済対策に関する考え方が大変重要な時期になっています。
 
 次に雇用対策の特徴を見ます。
 先進国のGDPに占める雇用対策費の比率を見ると特徴が出てきます。雇用対策は、積極的雇用対策と受動的雇用対策とに分けられます。積極的雇用対策費は日本では0.08%、アメリカは0.18%、イギリスで0.37%、ドイツで1.31%、フランスで1.34%です。(1999年)失業率が高まった今でも日本は低い水準にとどまっています。
 つまり失業対策には職業紹介や教育訓練、雇い入れ支援や雇用維持支援のための給与助成などの積極的雇用対策が不可欠だと考えている諸外国と比較して、わが国の対応は脆弱です。しっかりとしたセーフティネットを各地域で築いていかないと、今後も失業者増加は防ぎきれないと思います。
 
 続いて和歌山市における産業振興施策についてです。和歌山市はSOHOビレッジや入居者への経営相談、ベンチャー大学、起業家セミナーの開催など、新産業育成に力を注いでいます。これからを支える起業家を育成すること、和歌山市から新規事業を成功させ全国に事業を発信することは必要なことです。それと比較して既存の事業者への対応策は遅れていると思います。
 
 わが国の雇用がどのように創出されているのかを調査すると、既存の中小事業者に対する対策が、経済、雇用の面からも必要だと思います。
 開廃業に伴う雇用と、継続企業の雇用の雇用創出率を見たうえ、アメリカと比較すると良く分かります。
 わが国の年間の総雇用量に占める新規開業の率は3.5%、既存事業所の雇用拡大は3.2%、雇用創出率は6.7%です。既存事業所の雇用は、近年4.5%、3.4%と低下傾向を示しています。失業者増加の原因のひとつはここにあります。
 
 対してアメリカは、新規開業の率は8.4%、既存事業所の雇用拡大は4.6%、雇用創出率は13.0%となっています。
 
 日本の雇用創出の特徴は明らかです。アメリカでは、新規開業による雇用創出が重大な役割を果たしているのに対して、日本では既存事業者において雇用を拡大することが経済、雇用対策として重要であることが分かります。
 
 一方90年代に失われた雇用者数を見ると事態は深刻です。90年代前半の既存事業者の雇用削減は195万人。それが90年代後半になると削減は287万人に増えています。90年代前半までは従業員5人以上の会社は、いずれも雇用はプラスでしたが、90年代後半になると全ての規模の会社はマイナスに転じています。数量的に見ると既存の事業者における雇用の増減が雇用吸収力に大きな影響を与えているのです。このことから、既存事業者の雇用を確保することが、今最も大切な経済施策であると考えます。
 
 市場主義とは即ち弱肉強食の経済です。首都圏が活性化し地域がさらに衰退するのは当然です。規制緩和により恩恵を被るのは大企業とベンチャー系企業です。規制を取り払うことで、世界が相手となり、新規分野への参入も加速されますから、小を飲み込んで寡占が進みます。地域の主力である伝統的地場産業は、益々窮地に追い込まれます。当然企業は自立するものですが、競争力の小さい地場産業は、今までは地域内での役割があり、域内経済の中で必要とされ育ってきたため、市場主義に馴染まない企業が多いのです。
 
 市場主義を例えるなら、動物園の動物が柵で仕切られていた時は共存できていますが、規制緩和だからと、一斉に柵を取っ払うと猛獣だけが生き残る様なものです。経済界では、このような状態が進展しています。
 
 しかし中小企業者は、ただ呆然としているのではありません。業態を変えようとして努力している経営者がたくさんいますが、課題に突き当たっています。
 生き残りを賭けて業態を変える、新しい分野に挑戦する、既存技術を活かして今の事業を拡大するためには、財務計画、設備投資計画、短期・中期計画、開発計画、販売計画、経営理念などが新たに必要となります。しかし、中小規模の会社では、組織と管理体系を作り上げるための管理部門に人がいないのです。
 ですから、中小企業金融セーフティネットワーク政策を活用するにも、経営者から事業計画書の提出が要求されており、対応しきれていないのが現状です。
 
 和歌山市の他、県中小企業公社や雇用能力開発機構、商工会議所にも相談窓口がありますが、どこに何を相談したら良いか整理されていません。何人かの経営者と話しても、行政の相談窓口がどこか分からないという声が多いのです。
 
 そこで提案です。
 経営革新に意欲的な中小企業の方に対して、経営、技術、情報提供など相談に乗れるしくみを和歌山市で持てないものでしょうか。
 
 具体的には、市が経営相談に対するワンストップサービスを提供するしくみと、経営・マーケティング支援体制を築くことです。
 市の経営上の相談に対応する窓口を一本化した総合相談窓口にする、ここで全て解決できるに越したことはありませんが、無理ならプラットホーム的機能を持たせるだけでも良いと思います。雇用・能力開発機構に相談したところ、融資制度や優遇制度は整っていますが、市との連携が不十分で、それらが上手く活用されていないように感じました。また県でも雇用問題には取り組んでいます。国や県の相談窓口との連携をしっかりと行えるしくみと体制が必要です。
 
 経営・マーケティング支援については、民間から経営やマーケティングなどの専門的知識を持つスタッフに来てもらい、市場調査、商品開発、資金調達、販路開拓までの相談と支援する体制を整えることが有効だと考えます。
 一例として、地元和歌山大学あるいは大学の経済研究所や県と連携すれば実現可能な対策だと思います。現に中小企業は大学に対して、業種転換、衰退型産業の転換、マーケティング、経営指導を望んでいます。今こそ必要な対策だと考えますので、是非とも、取り組んで欲しいと思い提言いたします。
 
 さて、これらについての質問です。
 和歌山市の中小企業の金融相談窓口やSOHO入居者の経営相談などは企業支援課が行っています。しかし経営者が業態変更を考え、財務計画、設備投資計画、短期・中期計画などの経営相談に来たとすれば対応すべきだと思いますが、対応は可能な状態となっていますか、お聞かせ下さい。
 
 その2、中小企業支援に対して、国の機関や県との連携をもっとすべきです。現在の連携の様を教えてください。
 
 続いて、不況指定業種対策についての提案です。
 これに指定されると金融融資面でのメリットがあります。資金面の対策と先に提言した相談窓口の充実で、短中期的な経営的な課題に対して、地方自治体としての責任はある程度果たせると思います。
 
 次に近時点の対策としてひとつ提案いたします。
 現在、公共事業の土木建築関係の入札では、入札金額の下限が75%に設定されています。これは、業務の質と安全性を確保するためであると認識しています。
 同様の考え方で、本年7月1日から、建築工事に係る基本設計業務委託、詳細設計委託業務についても入札額の下限が66%に設定されています。
 市民から預かっている貴重な税金ですが、業務の質を担保し安全性を確保する観点からも下限は必要と思います。
 
 さて不況指定業種についてです。これらの業種で入札する場合は、下限が設定されていません。例えば印刷業などでは、安値で入札されるケースも聞き及びます。仮にこれらの品質は確保出来ていないとしても安全上問題はありません。しかし、不況指定された業種の方たちが、落札するために原価を割ってまで見積もりするのは、果たして正しい姿なのかと疑問に思います。弱った体力を更に弱らせるだけです。
 勿論、公共事業の予算は税金ですから無駄遣いはいけません。しかし、地元中小事業者をこれ以上縮小させることは、和歌山市の産業を更に衰退させることにつながります。地元産業が衰退するということは、そのまま市の衰退に直結します。
 平成14年度決算を見ても、事業者からの税金徴収額は大きく減少しています。その結果市税徴収額が減少し、市民サービスに活用できる予算額が減少しているのです。地元産業を保護することは市民生活安定のための一助になります。
 
 これまで地方自治体は、景気対策は国の役割だとしていたように思います。特別職の方には、先の11月臨時議会で職員さんの給与引き下げを行ったことの意味を重んじて欲しいと思います。つまり、地域振興に結びつく雇用対策や経済対策、地場産業の振興など、本来地方自治体が主体的に取り組むべきことを、これまで怠ってきたと、反省して欲しいと思います。
 
 本来自由競争にするのが、最も安価に仕上がると思われますが実際はそうはいきません。今日の経済の主流となっている市場主義経済、新古典派の基になっているアダムスミスでさえこう言っています。「同じ商売に携わっている人々は、娯楽や気晴らしのため寄り集まった時でさえも、話をしているうちに、つまるところは人々をペテンにかける共謀や、値上げのもくろみに行き着かない時は少ない。」と。
 これは競争が前提の市場主義においても、談合、共謀、入札操作があることを述べたものです。完全な自由競争にならないのであれば、必要なところに行政が規制をかけた方が地域振興のためになると思います。
 
 それを踏まえて質問です。不況指定業種に関係する入札に関して、下限を設定することは出来ないものでしょうか。見解をお聞かせ下さい。
 
 最後に、公的施設の管理について問題提起をいたします。
 最初に、民間企業の関係会社に関する考え方をまず示します。
 会社を上場させる場合には気をつけることがあります。そのひとつは株主になってくれる人に分かりやすくガラス張りの経営が必要だということです。具体的には関係会社のことを指します。関係会社が多ければ、外部から見ると、どんな取引をしているか良く分からないのです。基本は関係会社がないこと。関係会社があるとすれば、不当な取引をしていないとしても取引内容を公開する必要があります。関係会社がありすぎる新規上場企業に対しては、投資家は投資したいと思わないものです。
 市の外郭団体についても同じ事が言えると思います。市の事業は全て直営で出来ないことは理解しますが、外郭団体が多い、或いは事業内容が良く分からない、では市民は納得しません。
 
 そこで、本年9月2日から「地方自治法の一部を改正する法律」が施行されています。改正内容は「公の施設管理について指定管理者制度の導入に関する事項」についてです。
 従来の公的施設の管理は地方自治体の出資法人等に限定して委託することが可能だった管理委託者制度を廃止し、地方自治体が指定する指定管理者に管理を代行させることが可能な指定管理者制度が導入されたのです。つまり、公的施設の管理対象の規制緩和とも言えるもので、この制度を活用することで、いくつかのメリットが考えられます。
 
 地方自治体からすれば、指定管理者を指定するに当たって、民間団体などいくつかの候補者の中から選択することができますから、質の高いサービスが提供でき、料金引き下げも視野に入ります。また競争原理を導入できますから、経費削減が図れます。このように、財政負担の軽減と利用料金の値下げが可能になります。
 
 一方、市民からすれば、公的施設を民間経営することによるサービスの向上が図れ、ある程度個別のニーズへも対応が可能となることから、利用料金の値下げと満足度の高いサービスが受けられる事になります。
 しかも実施期限があり、既に管理委託をしている場合は、3年間の間に指定管理者にするか直営にするかを検討しなくてはなりません。体育館、図書館、公民館など市の対象施設は50ヶ所ありますから、全て直営でとは考えにくいものです。公的施設管理に民間を入れることによる財政的効果は最も期待出来るところです。市内民間企業への委託により、雇用確保、経済効果も大きいと思われます。
 
 また、市内の景気対策としても上手く活用して欲しいものですから、活用に当たっては、事前に公募の周知を図るとともに、既存団体がコンペなどでの選考に当たり、条件的に有利に働かないように、事業内容について説明会を開催するなど公平な対応をお願いしたいと考えます。
 
 そこで質問です。時間的に準備期間を含めても3年ありません。指定管理者制度を活用し民間参入を図るべきだと考えますが、指定管理者制度の活用について、現在の準備状況と、その将来の活用計画を聞かせて下さい。

 以上

 C再質問への答弁内容へ


平成15年12月 和歌山市議会一般質問について


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