709.花壇
 事務所の入り口に春を呼び込んでくれた花檀。お客さんをお迎えする入口に可愛らしい花が咲いています。事務所前の、花のない花檀と花のある花檀では、お客さんをお迎えする姿勢が違ってきます。
 事務員さんが用事で一週間、事務所を空けることになったのですが、花檀のことを気にして連絡をくれました。「花檀のことが気になっています。皆さんの好意で花を咲かせてくれているものですから枯らすと大変なことです。お水が心配です」というものでした。

 事務所の花檀は十数人が協力してくれて手入れし花を植えてくれたものでした。しかしどの季節でも花を咲かせるような花を組み合わせて植えていますから、四季を通じてお客さんを歓迎できることになっています。
 しかし2009年4月、私がうかっとしていて花檀にお水をあげるのを忘れていました。お花のことが気になっていたのですが、事務所に行く時間がとれなかったのです。週末に花檀へお水をあげに行こうと思っていたのです。
 ところが金曜日に事務員さんから連絡がきました。「Kさんが事務所のお花にお水をあげに来てくれています。心配いりません」というメッセージでした。人は知らないうちに誰かに支えられています。支えられていることに気付かないまま過ごしていることが多いのですが、実は多くの人が周囲で支えてくれているのです。

 もし花檀がきれいに保たれていたら、それは誰かがお花のお世話をしてくれているのです。もし事務所が清潔に保たれていたら、誰かが掃除をしてくれているのです。机にメモ帳が常にある、ファックス用紙が切れないでいる状況があれば、それは誰かが作り出しているのです。もしお客さんが笑顔でお帰りになっていたら、誰かの応対が親切で相手の気持ちを和ませてくれているのです。
 自分の周囲がきれいに保たれていたり、仕事が上手く循環していれば、それは知らないところで支えてくれている人が存在していることの証です。
 花檀に咲く花はそれだけで気持ちを柔らかくしてくれます。その花がきれいに咲いているのは誰かがお世話をしてくれているからで、その人の気持ちが花を通じて語りかけてくれるから、野に咲く花よりもきれいに映るのです。

 人の気持ちを直接見ることはできませんが、形ある物を通じて気持ちが分かります。きれいな花を咲かせてくれた人の気持ち。仕事がやりやすい事務所の環境を作ってくれている人の気持ち。花や事務所が、その人達の気持ちを伝えてくれるのです。
 その気持ちを受け取る感性を持ち合わせられる人でありたいものです。
 Kさんに花檀のお世話のお礼を言いたくて電話をしたのですが、散歩に出掛けて不在でした。本当に人を支えるために動いている人は、お礼を言われたくてしているのではありません。むしろお世話をしたことさえ忘れて、自分の健康管理や次の課題に立ち向かっています。
 きれいな花檀はお世話してくれる人の愛情を秘めて、今日も誰かを迎えてくれています。

コラム トップページに戻る

前のコラムへ   /  次のコラムへ