702.WBCその7
 2009年アメリカメジャーリーグ開幕を前に大変なことになりました。シアトルマリナーズのイチロー選手が胃潰瘍のため故障者リストに入ったのです。そのため開幕から数試合欠場することが決定し、9年連続の年間200安打達成への影響が懸念されます。

 それにしても、WBC優勝への選手へのプレッシャーは、私達の想像以上のものであったことを知ることになりました。代表選手以外は経験したことのないようなプレッシャーが選手を襲っていたのです。このことを知ると、試合結果や選手のプレイの善し悪しなどは小さな問題であることが分かります。国を背負って世界戦うことが素晴らしいことであって、結果は結果に過ぎないのです。優勝に向かう過程がより重要で価値があるものなのです。

 確かに、イチロー選手が打てなかった時の日本の応援団の失望感はありましたし、試合結果だけを求める報道は、イチロー選手をスタメンから外すことも必要などのコメントもありました。イチロー選手の存在は一打席や一試合だけの結果で評価できるようなものではないのです。イチロー選手がチームにいるだけで、輝きが違っていることを知るべきだったのです。翼が折れたような気持ちにさせたことを申し訳なく思うばかりです。

 WBC優勝は、日本チーム全員の勝利だったのですが、メジャーリーガーの存在なくして世界と戦い抜くことは叶わなかったと思います。打順を思い返すと明らかです。7番福留選手、8番城島選手、9番岩村選手と下位打線が全員メジャーリーガーで、その次が1番イチロー選手ですから、ポイントはイチロー選手だったのです。四人のメジャーリーガーを続けたのは1番で相手に圧力を掛ける存在がイチロー選手であり、四番目の打者として得点に絡める役割を期待されていたのがイチロー選手だったのです。

 前回は世界の王監督とイチロー選手が相手チームから注目されていたようですが、今回はイチロー選手がマークする標的になっていました。どの試合も、どの国のチームからも標的にされるプレッシャーは私達が想像できるものではありません。それが胃潰瘍の代償を払わせることになってしまったのです。

 個人として、メジャーリーグの歴史に残る前人未到の9年連続200本安打を目指すよりも、国の名誉と誇りである、少し言い方を変えたら、国の名誉と誇りに過ぎない野球の国別世界一の戦いの価値を優先させたのがイチロー選手なのです。

 自分のことや自分の利益を優先させているのが現代です。他人のことも考えられない人が、国の誇りを考えるような大きな価値感は持ち合わせていません。それでもリーダーであるべき立場の人は、自分の利益よりも全体の価値を優先させているのです。

 自分の身体と精神を犠牲にしてまで、国の誇りと私達の期待に応えようとしてくれたイチロー選手は、やはり、とてつもなく素晴らしいのです。

 今はゆっくりと静養して、2009年のシーズンは必ず前人未到の記録を達成して欲しいものです。国の誇りを掛けて戦ってくれたイチロー選手は、チーム名の通り侍でした。そんな侍を日本全体の応援で後押しをしてくれます。それが勇者に対する礼節なのです。日本人は礼節をわきまえていると信じています。

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