605.大局
 知人の三好さんは藤井寺市で不動産業、レストラン、美容室などを経営している事業家で、現在は後継者育成のためにそれぞれの会社に社長を据えて、大局から経営指南しています。
 三好さんは「会社が傾いても私は困らないけれども、社長と皆さんが困ることになります。自分の会社だと思って会社を支えて欲しい」と思っていると伝えてくれました。

 そして不動産業では常識外のことですが、元々、近鉄電車の藤井寺駅前に事務所を設けていましたが、閑静な住宅地内に事務所を引っ越しています。駅前だとお客さんのために十分な駐車場を確保できないため、ゆったりとして駐車場を取れる住宅地内に引っ越したのです。しかし目立たない場所に移転した後に売り上げは伸びていると聞きました。
 その理由は実に簡単でした。扱っている商品は不動産ですから、宅地造成した現場に会社と連絡先の幟を立てておくとお客さんから電話が入り、必要に応じて事務所に来てくれるからです。つまり商品のない駅前に事務所を構えておく必要はなく、商品である不動産のところに連絡先を明記しておけば事が足りるのです。後はお客さんのための駐車場が確保できている場所に事務所を設けておけば良いのです。
 
 そして三好さんは現役バリバリですが、それぞれの会社に社長を据えているのは理由があります。トップの仕事は次のトップと役員を育てることです。従業員全てを教育することができても、その全てをレベルアップさせることは至難の業ですから、経営陣を育成することで組織の推進力を強めるようにしています。
 トップがしっかりとしていれば従業員は付いてきます。多角化して大きくなった組織を今まで通りに運営するためには、小さな組織に分社化して強いトップに任せることが必要なのです。
 
 三好さんのトップ育成方法は原理原則に基づいています。つまり、まず褒めること、そして次も褒めます。その次も褒めた後、気付いたことを注意します。人は褒めてから注意を与えることでトップを信頼し、注意を素直に聞き入れてくれます。信頼のないトップから注意されても反発するか距離を置くことになりますから、組織としては効果的ではありません。

 良くあるのが、気付いたことは全員の前で叱るように注意し、褒めることをしない経営者です。叱ってばかりのトップに人は信頼を寄せませんから、組織が必要とする人材は育ってきません。
 そして戦略会議では人を追い詰めることはしません。「頼りないなぁ」と思っても、余程の不具合がない限り、責任のあるポジションの従業員に任せています。経験してみて人は成長するものですし、行動して行き詰る体験をした人がトップの忠告を真剣に聞いて受け入れるのです。トップは「褒めることと我慢が仕事のようなものです」と話してくれました。
 仕事は誰が実施主体になっているのか、そして誰が関与しているのかで成否は違ってきます。仕事の成果は人によって違ったものになるのです。

コラム トップページに戻る

前のコラムへ   /  次のコラムへ