594.新世界より
 「新世界より」。誰でもが知っているドヴォルザーク交響曲第9番」です。これを西本智実さんがタクトを振ったらどうなるのか。こんな夢のようなコンサートを観ることができました。本日、大阪のフェスティバルホール西本智実「新世界ツアー」が、モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団を率いて開催されました。

 今月初めのある日、先輩とクラシックの話、特に西本智実さんの話で盛り上がったのですが、その時「西本智実さんが今月日本に来るよ」と伺いました。そして先輩は東京サントリーホールでのコンサートに行くことになっていましたが、大阪公演のチケットの確認をその場でしてくれました。西本智実さんのコンサートは即日完売が当たり前で、国内公演のチケットを確保することは困難なのです。

 そこで驚いたのは、先輩は西本智実さんと交友関係にあったからです。あり得ない??ような事実で、これはホントに驚きました。
 西本智実さんは紹介をするまでもなく日本を代表するマエストロで、我々の中では既に世界一だと思っていますが、やがて名実とも世界一のマエストロになると思っています。

 そして大阪公演が今日だったのです。しかもコンサート前の緊張する時間帯でしたが、楽屋に入れていただく幸運までプレゼントされました。本番前の緊張が高まる時でしたが、楽屋では握手で歓迎してくれました。この後、指揮をすることになっているマエストロに会ったことで、余韻を持ちながらコンサートが始まりました。
 いきなりの迫力で静寂と喝采が渦巻きました。東京の先輩からは「関西は天気が荒れているらしいけれど彼女のタクトが吹き飛ばしてくれることでしょう」とメッセージが寄せられましたが、行く時は雨模様でしたが帰りには雨が上がっていましたから、やはり彼女が吹き飛ばしてくれたようです。

 「新世界より」が生き生きと繰り広げられました。作曲された1893年当時、ヨーロッパから見た西の新しい世界がアメリカでしたが、古いヨーロッパの世界とは違う新しい世界がアメリカだった様子が浮かんできます。見たことのない時代を現代に蘇らせてくれるのですから、西本智実さんの力量には感嘆するばかりでした。見たこともない光景を楽譜から想像し、音として現代に呼び寄せるマエストロの力は凄まじいものです。

 ダイナミックな身のこなし、飛び散る汗、振り乱した髪など、全てが音符を躍らせています。男性の世界であったマエストロの世界が西本さんの登場で新世界になりました。そうです。彼女の挑戦する舞台が新世界なのです。いつの時代も未知の領域に挑戦し、辿り着くのが新世界だといえます。ドヴォルザークもチェコからニューヨークに向かったのは未知の世界に挑戦するためでした。「新世界より」は歴史上の挑戦者を迎え入れ、そしてまた新しい世界に送り出している装置のようなものに感じました。

 私達は人生において「新世界」を目指した航海を続けています。目指す場所に辿り着く人もいれば、そうでない人もいると思います。しかし辛くても航海を続ける過程に価値があり、生きている誰もが、未だ見ぬ新世界を目指しているのです。1893年のニューヨークは、ヨーロッパの人にとっては文化的に遅れた地であったかも知れませんが、今では世界の中心地となっています。

 私達が目指す場所が現在からすると何もない新世界であったとしても、将来はそこが世界の中心になっているかも知れないのです。自信を持って新世界に挑戦したくなる。そんな気持ちにさせてくれました。
 コンサートの終わりには、万雷の拍手が鳴り止まず、出演者が何度も舞台に登場してくれました。観客と出演者が一体となったフィナーレ体験は震えるものでした。このようなコンサートを演出してくれた西本智実さんの素晴らしい世界に浸れた時間もまた、新世界体験でした。

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