418.製造業
 朝7時45分、和歌山市内の企業を訪問して朝礼で挨拶をさせていただきました。朝が早く感じるのですが、市内の製造業では当たり前のことだそうです。朝早くから仕事に取り掛かり注文主からの依頼に対応するようにしています。
 この会社では、他のところで対応出来ないような制作物を請け負っています。言い方を変えれば、形状やコストの問題などで他の製造会社で制作出来ないようなものを制作しているのです。工作物を製造するに当たって最後の拠り所となるような会社なのです。

 少し工場を見せてもらったのですが、製品の細かい仕上げは手作業です。職人さん達が経験に基づいた仕事をしています。本日お伺いしたN社長に伺うと、私たちの工場の職人はプロですから依頼された仕事は的確に行なっています。机上で仕事は出来ませんし収益を上げることも出来ませんから現場が会社の全てです。ですから日本の製造業は職人さん達で成り立っています。

 普段知ることの出来ない製造現場の仕事。私たちの周辺にはモノが並んでいますが、全て人が加工した形あるものは多かれ少なかれ職人が関わっています。工作物もそうですが農作物なども同じです。生活の基本となるようなものは全て職人と呼ぶことが相応しい人達による成果物であり、私たちはその恩恵を受けているのです。
 黙して語らない職人さんですが、生活の場の見えない部分を支えてくれています。モノがあるからお金の価値があるのです。食べ物があるからお金に価値があるのです。モノも食べ物もなければ、お金がどれだけあったとしても紙幣そのものには価値はありません。

 世界中で発行されているお金の総量と資源(食料や身の回りのモノなど)の総量のバランスは分かりませんが、資源以上のお金が溢れているように感じることがあります。それは「お金>資源」のような公式が生活において優先されているように感じるからです。近年、モノづくりのために働く価値よりも、お金を動かすことを業としている仕事に価値あるような感覚があり、製造業に就くことを敬遠する傾向のように感じることがあります。

 その証拠としてN社長に聞くと、新卒の若い人を三人採用すると、数日で一人は辞めてしまいます。一人だけ採用するとその一人は、仕事を続けることが出来ないで辞めてしまいます。技術系の人にとっても、モノを造る喜びよりも現場の厳しい環境に負けてしまうのです。冬は寒くて夏は暑い現場の環境。仕事に必要なものは学校で学んだことよりも現場経験が大切なことからくるジレンマ。一人前になるのに数年を要する環境。これらの厳しい要因が若い人を製造現場から遠ざけています。今日の会社でも若い人よりもベテランの人の比率が高かったようです。

 日本が誇る製造業も曲がり角を迎えて数年経っていますが、問題は解決していないばかりか深刻さを増しているようです。
 N社長から伺った話で興味深いものがありました。それは次のようなものです。
 小規模の製造業の会社を経営していても、将来に夢を感じることは少ないのです。会社を経営するよりも維持することで精一杯で、発展までは辿りつかないのが現実です。上場を目指せる会社なら夢かありますが、地方都市の中小企業にはその夢がないのです。社長と言っても現場や営業の仕事をしているので、経営者や社長業の感覚はないのです。ですから自分の子どもを後継者にはしたくないのが本音です。会社を維持することよりも夢を見られることの方が大切なのです。地方都市の経営者のことを知ることが出来る感想です。製造業の将来は夢があるかどうかに掛かっているとも言えます。

 別の上場した会社の社長は、会社の使命は上場して税金を納めることにあります。社会に貢献出来る会社でないと経営している意味はありませんと言います。経営者との話し合いは地方都市について考えさせられることになります。

コラム トップページに戻る

前のコラムへ   /  次のコラムへ