416.財産
 1999年に和歌山県の南紀地域全体で開催されたのがジャパンエキスポ南紀熊野体験博です。オープンエリア型の博覧会は当時としては画期的なものでしたし、今も自然や地形を活かした地域振興を図ろうとしている状況を見ると、時代を先取りした博覧会であったことが分かります。パビリオンを造らないで和歌山県が持つ海や山、川を自然のフィールドと捉えてお客さんに来てもらうことを狙った博覧会は、その後の博覧会モデルを一新する役割を担っていました。

 世界文化遺産に認定されている熊野古道が脚光を浴びたのも南紀熊野体験博が最初だったように記憶しています。事実あの当時、熊野古道は単なる林道で、忘れられた道、価値がない道、価値を生み出すことなど想像も出来ない資源でした。古道が観光資源になると思っていた人の方が少なかったのではないでしょうか。
 博覧会の準備段階で、世界文遺産のフランスからスペインに向かう巡礼の道「サンチャゴ・デ・コンポステーラ」と世界で初めてとなる姉妹道提携を結び、そして南紀熊野体験博を開催し、その後の世界文化遺産認定に流れていく訳です。今では熊野古道は和歌恵山権が誇る観光資源であり、世界の古道になっています。

 昨年秋、地中海の国キプロスで開催されて観光と宗教を融合した新しい観光産業としての取り組みを目指す国際会議で、東洋からは熊野古道を持つ和歌山県が招待され発表を行なっています。エルサレムやサンチャゴ・デ・コンポステーラなどの世界が誇る観光と宗教の聖地と同様に熊野古道を世界が評価してくれているのです。南紀熊野体験博の実行委員OBで構成している「なんくま会」の会員がキプロスで熊野古道について報告を行っています。本来は大きなニュースなのですが、昨年秋当時は和歌山県の官製談合事件が花盛りだったため、良い話題が表に出ることがなかったのが残念です。

 さて、7回目の開催となる今回の「なんくま会」の前会長と、現会長で永世会長に指名された現会長から挨拶がありました。当時の思い出話だけではなく、生きて来た歩みやこれからのことについても言及されました。
 長い人生の中ではエポックとなるような出来事が誰の下でも起きますが、それが何であったのか振り返った時に初めて分かることがあります。会長によると、必然の偶然という言葉で表現されましたが、偶然の出来事であっても、それが起きた後に重要な意味を持つものであれば、必然であると言うものです。私たちの人生には必然の偶然が満ち溢れています。気付くか気付かないのだけです。

 組織にいれば人事異動、転職、賞罰などが該当します。そのことによって後の人生が大きく変わること、そして生き方をも変えるような事象の意味を自分で分かることが大切です。必然の偶然を見逃してしまうと二度と現れてくれません。
 私にとって南紀熊野体験博は大きな意味を持つ必然の偶然です。会社の外の世界を知る機会となりましたし、今日も仲間と話したのですが、当時の若手、中堅職員さんが、今では役職や中堅として県庁を引っ張っている時代に突入しています。素晴らしい人脈として今では私の財産となっています。なんくま会の会員の皆さんを、これからもずっと大切にしたいと思っています。

 偶然は度々訪れますが、必然の偶然として自分のものに取り込むことがその後の人生を左右します。気付かなくても変化はありませんが、必然の偶然が発生したことに気付くと、今までとは違った人生もあることが分かります。歩くべき道の幅が拡がることで選択肢は拡大しますから、冒険であっても誤りの少ない安全な選択をすることが可能となります。

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