349.グローバル化
 グローバル化。今では誰もが使っている外来語ですが、これがグローバル化と言った場面に出会うことは少ないので、どんな意味なのか良く分からない言葉でもあります。
 個人的には次の訳が分かり易いと思います。「近代的通信や運輸技術の急速な発達によって、他者との関係付けがより簡単に、より安価に可能となる結果、国境を越える関係や接触が加速度的に増加することによって起こるさまざまな傾向」(*1)

 グローバル化によって、好むと好まないにも関わらず私達の生活環境は大きく変化しています。
 大きなところでは、物質的に社会が豊かになったことが挙げられます「貧しい社会では、相互信頼による社会保険、家族や地域社会の向こう三軒両隣の相互扶助が必要です。そこでは社会的連帯が重要なのです。豊かな社会では、自分で銀行に貯金をし、保険に加入」(*2)するのです。近所付き合いが希薄になった原因はここにあります。お互いが補完しあっていた社会から、必要なものが不足していた場合には、それをお金で補う社会に変化してしまったのです。
 これを昔が良かったから元に戻そうとしても、グローバル化の流れに逆行していますから簡単なものではありません。グローバル化とは、世界レベルで見ると何の問題点もないのですが、国や地域単位で見ると問題が発生していることを指します。ですから世界がグローバル化の流れとなっても世界全体としては良くなる傾向ですから、止めようがありませんし、積極的に止める理由が見当たりません。
 
 そして重要なことは「階級構造の変化」です。かつては「労働階級出身の指導者は中産階級の同志と同じくらい、あるいはそれ以上に頭が良くて見識も才能も高い人たちであった」のですが、「学歴主義になった20世紀の後半には、かつては労働組合のリーダーになったかも知れないような貧しい家庭出身の優秀な者が、今では学校を楽々と卒業し中産階級の一員として成功することができるように」(*3)なったのです。

 つまり、かつては苦労して労働界でリーダーになり、経営層や政治家と対等に渡り合えていた人材が出現していたのですが、今では奨学金などの制度充実によって教育機会の均等がある程度図れたため、そのような人材は進学することで社会組織の一員として組み入れられ、本来であればリーダーの資質を持っていたのに、組織の一員としての役割が与えられる結果になっていることが社会の沈滞化を招いているのです。
 優秀な人材が社会に進出したとしても、高いレベルで画一的される結果に終わっていては活性化につながりません。違う価値観を持った人材がお互い高めあえる環境にあること、経営者と労働界に両方に人材が配置され、違う観点から組織や社会を切磋琢磨し合える環境にあることが社会を活性化させるものです。
 グローバル化はあらゆるものが短時間で国境を超えますから、価格の均一化や経済水準が高いレベルに向かう傾向がある一面もありますが、一つの価値観に統一される傾向も否定出来ないことから気をつけないと地域も人材も画一化に向かいます。
 グローバル化で豊かな社会に向かったとしても、他人と違う価値観を持っていたらそれを主張出来る環境を築くことが大切です。豊かな社会で自己実現することが可能な社会は理想です。実現まであと一歩のところまで来ているのです。

*1から*3までの出典『働くということ』ロナルド・ローア著、中公新書、2004.4.25

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