283.躾
 地域づくりは人づくり。人をつくる秘訣は、厳しくそして思いやりを持って優しく接することにあります。躾とは身体を美しくすることですから、厳しくても躾を大切にしています。
 家庭生活の中からでも子どもの躾は可能ですし、家庭で躾をしないでその部分を学校任せにしてはいけません。
 家庭での夕食時、仕事で忙しい父親だけ帰宅が遅く母親と子どもで夕食をとる場合があります。その時、母親が何も言わないで先に食事を済ませてしまうと、子どもは父親の存在を感じなくなります。家庭から父親の存在が薄くなっていくのは母親の態度にも問題があります。父親がいない夕食になった場合、母親が子どもに「お父さんは私たちのために遅くまで仕事で頑張ってくれています。申し訳ないけれど先にいただきましょう。おとうさんに感謝をしてね」と一言添えると、父親がその場にいなくても父親の存在につながります。

 学校で見受けられる事例もあります。現代の小学生は筆箱を持っています。その中にはきれいな鉛筆と消しゴムが納められています。放課後、新しい鉛筆やまだ新しい消しゴムが忘れられていることがあります。翌日忘れ物だと周知しても名乗りを上げない場合が多いそうです。理由は鉛筆も消しゴムも数多く持っていること、そして無くしても保護者が買ってくれることなどが要因です。
 ものを大切にしない子どもが多くなっていますが、ものを大切にしない子どもは人も大切にしません。ものはただでどれだけでも入手出来ると思っている子どもが多いので、保護者や大人に対する感謝の気持ちが失われています。
 ものを大切にする気持ちは感謝の気持ちにつながり、子どもにその気持ちがあれば大人に対する尊敬の念が芽生えます。この精神的循環が失われつつあります。
 こんな時、周囲の大人は子どもに注意をしてものの大切さを分からせる必要があります。
「あなたが鉛筆を学校に持って来られるのはお金があるからでしょう。あなたがお金を稼いでいるのですか。お金はお父さんやお母さんが稼いでくれているのですよ。ただ(無料)のものはありませんから、子どもが持っているものは保護者が与えてくれたものばかりです。ものを大切に、そして与えてくれている保護者を大切にして下さい」
 一言をもって指導するだけで子どもの心掛けは変わります。
 
 こんな光景も良く見ます。小学校の給食で嫌いなおかずを一口も食べないで残す子どもがいます。この態度も見逃してもいけません。

大人「何故食べないの」
子ども「嫌いだから食べないの」
「給食は皆んなが健康で大きくなれるように栄養のバランスを考えて作ってくれたものだから残しては駄目だよ。食べるのが学校のルールだから守らないといけないね」
「学校だけのルールでしょう。守らなくても平気だよ」
「守らなくては駄目だよ。では家の食事はどこで食べる」
「家の食事テーブルだよ」
「食事テーブルで食べるの。トイレで食べないの」
「トイレでは食べないよ」
「何故トイレで食べないの」
「そんなの決まっているからだよ」
「誰も言わなくても決まっているでしょう。それがルールですよ。どんな場所のルールでも守らないとめちゃめちゃになるよね。じゃあ、信号が赤だと渡りますか」
「赤だと道路を渡らないよ」
「それが信号のルールでしょう。つまりそれは社会のルールですよ。皆んな好きなように行動して信号を守らないとどうなると思う」
「皆んなが好きなようにすれば危なくて歩けないよ」
「そうでしょう。一人ひとりが好きなように行動する社会は秩序がなくなり危険だよね。だから社会のルールも守るし、家庭のルールも守る、学校のルールも守らないとね。給食を残さないで食べるのは学校のルールだよ」
「分かった。少しでも食べてみる」

 子どもに気付かせ、自分の言葉で話させることで初めて行動が伴います。押し付けで食べさせてもその場限りの行動に終わってしまいますから、気づいてもらうように話をすべきなのです。気づきが行動を変えてくれます。

 大人は子どもに気付かせて行動を促すべきです。話さないと相手に伝わりませんし、大人の経験は伝えないと相手に伝わりません。
 言わなくても分かっていると思い相手に言葉で伝えないと経験は継承されません。経験を伝えることで人類は発展してきました。現在は人に干渉しない空気があり、後輩に経験を伝え切れていません。言葉で伝えない経験は消え去りますから、古き良き文化が失われているのはここに原因があります。経験は言葉で伝えることで受け継がれていきます。

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