204.人件費
 上場企業の株式配当が増額されていることなど、全国的に経済が回復基調にある報道がされています。有効求人倍率が改善されていることなどから、企業は人材が必要で雇用情勢も改善されていると聞きます。
但し有効求人倍率が上向いていますが、過去のトレンドの延長線上にあるか否かは微妙なところです。それは求人増加の内訳から推測出来ます。有効求人数の2/3は派遣社員の募集で正社員の求人ではないのです。労働力が固定費だった時代から、現在は企業が人件費の削減を目指して変動費へとその性質を変化させています。

 変動費にすることで景気変動にもしなやかに対応が可能となりますから、派遣社員の採用が増加しているのです。雇用形態は何が正しいかはありませんから、時代に即した対処方法が派遣社員のしくみです。

 さらに正社員となる道として紹介派遣のしくみもあります。これは派遣会社から教育訓練を受けた人材を企業に派遣し、目処として六ヶ月仕事をしてもらいます。六ヵ月後、派遣された人がその企業に留まることを希望し、企業側もその人材を雇用したいと願えば、その時点で正社員として採用するものです。企業にすれば雇用しようとする人材の能力を確認できる期間が六ヶ月あること、企業に合わない人材だとしても本人に解雇通告をしなくても期間満了で契約を打ち切ることが出来ることなど利点があります。
 人材派遣登録をしている人にとってはいきなり正社員になるのが難しい雇用状況ですから、希望する職種を登録しておくと条件に近い企業で働ける機会を得られること、能力次第で正社員になれることなどが利点です。

 人材が不利益を被ることも予想されますが、雇用が流動化しつつある状況ですから上手く活用することで失業率の改善と雇用を安定させることにつながる期待があります。しくみが出来たら批判をして活用しないよりも、まずやってみてからしくみの是非を判断することが大事です。考え方によっては、新卒採用が王道だった時代だったなら、ある時期を逃すと正社員になれる機会は限りなく失われましたが、採用時期が不確定になっているため新卒でなくても能力や技能次第で正社員になるチャンスは拡がっています。

 問題があるとすれば、労働者側にとっては人件費を抑制される傾向にあることで、企業が収益をあげたとしても、収益配分は人件費に回されないで株主配当や商品価格の低減に活用される場合が多くなっていることです。所得が減少すると当然のこと支出は抑えられます。支出が増えないと通貨の流通が減少しますからその地域の経済は停滞します。地域内経済が低迷しだすと将来への不安が脳裏をよぎり将来に向けて現在の消費を減らして貯蓄に回そうとすることから、必要以上に消費を抑える気持ちが働きます。個人消費を刺激することが経済対策の根本ですから、必要以上の人件費抑制はそれに反することになります。
 時代は物事が行き過ぎると、反対側に向かうよう自然に修正してくれるように何事もバランスが大切です。

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