146.和歌山市立
    幼稚園廃園問題
 平成17年3月定例会で提出されている議案第57号は「和歌山市立学校条例の一部を改正する条例の制定について」です。この提案文書は簡潔な一文です。「和歌山市立学校条例(昭和48年条例第50号)の一部を次のように改正する。和歌山市立大新幼稚園の項及び和歌山市立西山東幼稚園の項を削る。附則この条例は、平成18年4月1日から施行する」となっています。繰り返しますが、見逃してしまいそうな簡潔な一文です。
 ところがこれが、和歌山市でここ2年間問題となっている市立幼稚園2園の廃園をするための条例改正なのです。廃園問題を簡単におさらいすると、行政改革の一環として児童定数充足率が低位な幼稚園を廃園にする計画が、平成15年初頭、保護者にとっては事前に説明のないまま唐突に和歌山市から発表されました。
 この時、両園に通園している保護者の方々は直ちに当局に対して意見提起を行っています。何ら事前の説明が成されないまま、当局による突然の廃園決定は納得し難いと言うものです。当局としては、平成8年度から行政改革の一環として廃園を検討してきた結果であると説明を行いました。確かに行政手続としては正しかったかもしれませんが、当事者に知らせないでの発表は保護者にとっては背半行為に写ります。
 保護者から市議会に対して、廃園を中止してくれるように請願が提出されましたが決議されないまま統一地方選挙となり、請願は審議未了のまま流れてしまいました。
 新しい市議が選出された後の最初の議会となった平成15年6月議会で、廃園問題が大きなテーマとなりました。
 私的に問題と思ったのは、市の主役、言い換えれば主権者である保護者の意向を無視したまま廃園を決定した行政手続に瑕疵がある点。教育と財政問題に端を発した行政改革は相容れないものであること、それよりも先に廃止すべき事業があると思われること。教育委員会或いは市の責任者が十分な説明責任を果たしていないこと。教育を受ける権利の主体である園児の現在と将来のことを当局は考えていないこと、などでした。
 何よりも子どもを思う一心で市民運動を展開し、7万人の署名獲得、請願の提出、忙しい合間を縫っての毎市議会への陳情活動など、2年間続けてきたことが大きな軌跡です。子どもの事を思わない親はいないのですが、保護者の昼夜を問わない熱心な活動は本気の現われです。
 廃園問題は丁度、私が市議会に送り出していただいた時期と一致していて、議会のことが何も分からなかった私にとって、保護者の皆さんと同じように歩んできた歴史でもあります。もっと言うなら、議員としての私を成長させてくれたテーマと言えます。先行きの分からない取り組みで、全く保護者の方々の思いの深さと子を思う信念には頭が下がります。私がNPO法人の活動を行う中で分かったことは、署名を集めることが如何に難しいものか、小さな団体による活動を継続していくことの難しさなどです。自分の体験からも、保護者の方々の活動がどれだけ大変なものであるか分かっているつもりです。
 小さいもの、立場の弱いものが巨大な組織に立ち向かうには、大変な勇気と行動力、そして強い動機が必要です。本当に彼女たちは、涙が出るほどの活動を見せてくれています。
 強い立場にある人は、例え結果が同じだとしても、意見と思いをしっかりと受け止めて心の通った応対をして欲しいものです。人と人がお互いに歩み寄れて理解し合うには、立場的には対立しても相手を思いやる気持ちが必要です。会って話を聞く、納得行くまで話し合うことが唯一解決の手段です。
 廃園問題に関しての教育委員会の今までの対応は、十分に心あるものとは思えない所もありましたが、ただ最近は保護者を思う気持ちを持ってくれていると感じる部分もあります。園児の転園に関しての配慮、震災に備えて、そして街中にある学び舎としての意味を持たせた大新小学校校舎の優先的建替え、学校内にあるプールの建替えなど、地域の拠点としての教育施設として充実させる計画を提案してくれています。教育長は責任を持ってやり遂げる覚悟を持ってくれています。この約束は、2年に亘る人間関係の中から信頼出来るものであると確信しています。
 そして議会の合間の短い会話時間の中である保護者が見せた涙は、全力を尽くしてきた人だけが見せることの出来るものでした。小さな体に大きな責任を背負って歩いてきた2年間。何度訴えても打開できない大きな壁に対してこみ上げて来る憤りと悔しさは、真剣な思いと信念に基づく行動をしてきたから味わう思いです。廃園問題と共に成長してきた保護者は、これからも和歌山市の教育に関して先導役を果たす役割が待っています。
 午後の議会で大橋市長は、子どもに関する答弁の場で涙声になりました。市長は昼休憩に少しの時間ですが保護者と交わした言葉がありました。子どもを思う親が決断を迫られている、その揺れる心情が市長に伝わらない筈はありません。この時に交わされた言葉が、市長の心に残っていたことが言葉を詰まらせた原因だと私は個人的に確信しています。
 保護者の心情を思えるだけの気持ちが、確かに市長の中に芽生えていると感じ取れる一瞬でした。
 心の通わないたった一行の条例改正案ですが、この中には多くの人の思いが詰まっています。行政は、あくまでも冷静な条文に心を通わせるため、市民の意向を行間に反映させる大きな使命があります。市民から選ばれた議員は、条例や規則類の解釈を心あるものにする使命が課せられています。
 平成17年3月24日、本会議最終日で改正条例案は可決されました。

コラム トップページに戻る

前のコラムへ   /  次のコラムへ