63.体験観光
 和歌山県には本物の体験観光プログラムがあります。単なる観光旅行ではなく職人さんたちによる案内やプロの技術を学ぶ体験と観光を組み合わせたものです。写真を撮っておしまいの観光旅行ではなく、いつまでも心に残る体験を提供しています。
 最近では、東京の修学旅行生が和歌山県にある清水町へ林業体験に訪れました。最初は何故林業をやらなくてはならないのか不満に感じていたらしいのですが、体験すると楽しくて熱心に取り組んでくれたようです。その子たちは卒業旅行で再度訪れてくれたといいます。感動体験の素晴らしさを物語っています。

 エピソ−ドは尽きません。炭焼き体験をした学生達が、最終日に講師をしてくれた80歳の炭焼き職人さんと握手をした時、じっとその手を見つめました。職人さんは「汚い手だろう」と聞いたところ学生は「ひとつのことをやり遂げた年季の入った手です」と答えたのです。一人ひとりが握手をして職人さんと言葉を交わすものですから、出発時間が遅れてきました。添乗員が「急いでバスに乗って下さい」と急いだところ、担任の先生は「人生には無駄に過ごしている10分や15分はいくらでもある。この大切な時間は10分程度出発が遅れても無駄な時間ではない」と十分な別れの時間を確保したのです。
 職人さんが人生をひとつの職業にかけた人生から何を学んだのでしょうか。都会で不自由のない生活をしている中からだと学べないものを見つけたはずです。

 地元の漁師に学生に漁業指導して欲しいと頼んだ時のことです。漁師は何も教えることはないと体験観光の講師を拒んだのですが、30分で良いからとの条件で引き受けてくれたそうです。最初は漁業から学生に教えるものはないと思っていたのですが、講師をしていると技術指導に熱が入り軽く1時間をオーバーしたのです。教えるものはないのではなく、伝達する人が周囲にいなかっただけでした。自分の知識や技術を人に伝える楽しさは格別のものです。

 体験観光は和歌山に来た人たちに体験感動を与えるだけではなく、講師になる人たちにとっても自分の存在を他人に伝える貴重な機会となっています。講師をすることで自分に自信が蘇り、それが地域の活性化につながります。体験観光の本当の目的は、非日常体験や自然の中で過ごすこと、優れた技術を習得することではなく、昨日の自分よりもステップアップする自分を見つけることです。新しい自分に生まれ変わり、もう一度人生にエネルギーを使ってみようとする意欲を持つことにあります。疲れた精神を元に戻すだけではなく、精神レベルを引き上げることが本当の意味での癒しです。
 プログラムを新しく作るのではなく、本物の技術を持った人と一緒に体験することが感動につながります。無理にプログラム作っても本物でないと感動は生まれません。
 体験観光は予想以上の波及効果を生み出しています。

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