コラム
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2012/8/21
1095    婚姻届

左手で演奏する男性のプロのピアニストが智内威雄さんです。小さい時から将来を有望視されたピアニストでしたが2001年に右手に局所性ジストニアを発症し、リハビリを行う過程で左手だけで演奏活動を行い始めました。左手だけという境遇にも負けずに残された手だけでピアニストとして復活しました。私はその演奏を聴いたことがないのですが、まるで両手で演奏しているように聴こえ感動的だということです。

そんな智内威雄さんがある時、結婚を決意しました。婚姻届を提出する日は土曜日で、しかもその日は箕面市社会福祉協議会での演奏会が予定されていたのです。土曜日は市役所が休みとなっています。ただ婚姻届は土曜日でも市役所で受付をしてくれるのですが、何となく提出した感に欠けるような気がします。

ところでこの箕面市社会福祉協議会において倉田箕面市長から智内威雄さんに対して「箕面左手のピアニスト大使」の称号が授与されることになっていました。箕面市のために尽くしてくれている智内さんに対して称号を授与するのが市長の役割になっていました。

結婚をすることを知り、また授与式の土曜日に婚姻届を提出する予定であったことを知った市長は考えました。「婚姻届は市役所に提出するものだが土曜日は閉庁している。市長の立場は、行政の届け出に関してのものは全て自身で受け取れることができる。それならば閉庁している市役所に届出してもらわなくても、授与式の当日に私が婚姻届を受け取れば良いのではないだろうか」と。

余り前例はないことですが市長が、智内さんのために授与式の舞台で婚姻届を受け取ることを決意しました。「市の名誉のために演奏活動をしてくれている人が幸せになることだから、例え批判があったとしても市民の代表として堂々と受け取れば良い」と考えて、箕面市社会福祉協議会の舞台で婚姻届を直接受け取ることにしました。

授与式、演奏会、そして婚姻届の受理という式典は大いに盛り上がったと聞きました。演奏会は素晴らしかったのですが、それ以上に智内さんの幸せを会場にいる全員が共有し、お祝いの空気に包まれたそうです。一人の幸せが全員のところに降り注ぐような雰囲気だったと想像できます。

前例に囚われない市長の行動が幸せの輪を広げたのです。「箕面左手のピアニスト大使」の称号の授与式と演奏会の当日が婚姻届を提出する日だったという偶然が重なったことを吉として、一人の幸せをそれに相応しい舞台で歓迎することを思いついた市長の発想と実行力は素晴らしいものです。

前例を踏襲する役所主義、批判を恐れる主義ではなく、素晴らしいことや幸せなことは大胆に実行する考えと実行力は、市のリーダーとして相応しいものだと思います。そして幸せを共有できることは幸せであり、この日は箕面市が幸せに包まれたように思います。

倉田箕面市長からこの話を伺った時、私にも幸せの香水が降りかかったように感じました。人の幸せを自分の喜びとして感じたいものですし、そう感じられると幸せの香水が自分にも分け与えられます。幸せの香りが身にまとえる日を多くつくりたいものです。