県立医科大学のS先生と懇談する時間をいただきました。
先生との懇談の最初に出たのは「医師は『to stand on the shoulders of giants』を常に思わなければなりません」の言葉でした。私は驚き「巨人の肩の上に立っていることを意識しておくべきなのは、医療の世界も同じだったのですね。どんな世界でも、人類は先人から得た知識を学び、自分のものとして蓄積させ、その上にさらなる知識を付け加えるという形で文明を進歩させてきましたから。私は今年、母校の卒業式でこのことを伝えました」と話しました。
先生は「この言葉は私が言った言葉ではないので、私はたいしたことはありません。私たちが医療に携われるのは、先人たちによる医療技術の積み上げや医療機器の進歩によるものです。医療分野において、どんな医師でも一人の力や努力だけでは患者を救えることはできません。
現在医学は、第二次大戦後に急速に進歩していった経緯があります。ヨーロッパの医療学会に行くとWar and Medicineという分野があるのですが、ここでは戦争現場で勤務した医者の話を聞くことができます。兵士や医師自身も傷ついた写真を講演で見せてくれるのですが、見るに堪えないような惨い負傷した姿があります。戦地の負傷は私たちの生活で起きる怪我と全く異なり普通ではなく、医療設備が整っていない現地ですから、相当高い医療レベルが求められていることを感じます。戦争で開発した武器や弾薬、化学兵器から私たちが生活で使っている多くのものが誕生しました。医療も戦争によって発展してきた歴史があります。だから過去から積み上げてきたものを尊重し、今に生かすことが必要なのです」と答えてくれました。
私は「先生が言った言葉ではありませんが、この言葉を言えること、伝えていることはこの精神を有しているからであって先生は素晴らしい方です。多くの人は自分に自信があるので、全て自分一人でやったように思っていますが、現代社会のほぼ全てのことは先人たちが積み上げてきたことのお陰であり、私たちは巨人の肩の上に立っているに過ぎないのです。そう思って知識と技術、そして経験を仕事に生かし、少しでも社会を前進させることが私たちの果たすべき役割だと思います」と答えました。
そして戦争で医療が進展してきた事実は他の分野の進展と同じで、戦争で必要なものの開発に莫大な資金が投入されたからです。研究費用が提供されることで化学は発展し生活は豊かになっていきました。現代も豊富な資金があるところが世界をリードしています。インターネット技術やAIの開発は言うまでもなく、半導体や宇宙分野など、全ては資金を投入するから開発企業は世界をリードできています。医療分野も同じで、日本の医療は世界トップレベルですが、投入されている研究資金はアメリカと比較して脆弱で、国の予算化が遅いことが課題となっています。
アメリカではロックフェラー財団などドネーションシステムがあります。日本の公立病院は国や地方自治体からの補助金なので、欧米に比べると医療に配分される予算が少なく、また予算編成をして要求してから配分されるシステムなので、必要と思った時から2年後、3年後に予算化されることは珍しくはありません。このように必要な時に、即対応できないところも医療システムの問題点です。
加えてアメリカでは40歳代になれば日本円で約5,000万円の年俸の医師は普通にいるようです。医療に携わる人にとってお金は目的ではありませんが、モチベーションを高めることにつながることも事実です。
日本の医師は高度な手術をしても、簡単な手術を繰り返していても、年収はほぼ同じですから、これは若い人が医学、特に外科を志すモチベーションにつながっていない原因の1つだということです。
また民間病院では保険点数の低くて難しい手術が必要な場合は「県立医大を紹介する」ことがあるようです。手の動脈瘤の切除手術はわりと高い技術が必要なのですが、点数が低いので、経営的に考えると割の合わない手術です。昔から点数の見直しがされていないのが問題ですから、この点も考え直す必要があります。
医師は自らの医療技術を高める研鑽が必要であり、時代に即した保険点数の見直しや医師の年収を見直すことが必要だと感じました。
さて県立医大の医師は、本来、土曜日は休みですが、S先生は「自分が手術をした患者さんのことは気になるのでいつも見に来ています。同僚の医師と話をしても『自分が執刀した患者さんのことが氣になるから見に行くよね』と話しています。今の若い医師は割り切っているので休みの日となれば出勤しませんが、これは時間外勤務をしないだとか時間外手当が出ないなどの問題ではなく、人間の心の問題だと思います。
かつては手術日である金曜日に執刀した医師が土曜日に数人集まり、事例のミーティングをしていましたが、今はそれがなくなり患者さんとの関りは個人に委ねられています。時代の変化なので仕方ありませんが、患者さんに寄り添うシステムを考えることも必要かもしれません」と話してくれました。
医師の資質として医療技術レベルも必要ですが、人間性や人柄はとても大事です。話しやすいこと、質問に答えてくれること、安心させてくれること、笑顔で接してくれること。そして手術後に病室に来てくれることなどです。
ところで県立医大にはトップアスリートなど各界で活躍している人たちが入院する場合があるようですが、先生は「彼らの経験談を聞くと自らのモチベーションアップにつながります」と話してくれました。
先生は「トップで活躍している人は、人の知らないところで隠れて努力をしている。練習に朝も夜も相当の時間を費やしていますが、毎日同じことを繰り返すことが一流になるために最低限必要なことだと分かります。同じように私の尊敬するアメリカの整形外科医は、朝5時からでも必要な仕事をしています。午前2時や4時にメールをすることも苦にしていないようです。私もそうですが医療の仕事が好きなので苦になっていませんが、若い医師は意識が変わってきているので、これからの医療を支える人のために、時間外勤務手当を付けることや年収を上げる、勤務時間を削減して自由時間を増やすことなども考える必要があると思います」と課題を伝えてくれました。
一流プレイヤーやトップの人たちは隠れたところで努力を行っていることを私たちは知っているので、決して結果だけでその凄さを評価していないのです。
医学とは学問であり日々進歩しているものです。医師も研鑽する必要がありますが、現場が忙しくて時間が限られていることから医療体制も検討が必要だと感じました。
尊敬する102歳の経営者から連絡をいただき、今月の言葉を伝えてもらいました。
世のため人のためにすることが仕事であり私たちの役割ですから、健康でいられることに感謝しなければなりません。動けなければ世のため人のために尽くすことができませんからね。何はともあれ身体は一番大事なので、たまにはゆっくりすることも忘れないようにしないとね。無理をして体調を崩したり健康を害したら動けなくなるから、何もできなくなってしまいます。決して慌てないように、無理をしないように、ゆっくりしてもらいたいと思います。
人にとって見えない力、陰の力というものが大きな力として支えてくれています。特に日本人は神様に護られているので、神様に感謝することを忘れないようにしてください。人は頼むときだけ頼みに来ますが、お礼をしないことが多いのです。頼んだらお礼をするのは当然のことですから、このしきたりを忘れないようにしてくださいよ。
見えない力は人の分からないところで働いてくれているので、大きな災いを小さくしてくれるなど、良い方向に向かわせてくれています。身の回りで起きていることが小さいけがや事故で済めば、それは神様、見えない力が大きな災いを取り除いてくれているからです。
良い出来事、良くない出来事であっても問題を小さくしてくれているので、どんなことにも感謝の氣持ちをもってください。世のため人のために動いている人は、必ず神様が護ってくれています。だから神様に感謝の氣持ちを持ち、その方向を向いてお礼を伝えてください。
人は役割を授けられ生かされています。それを遂行するためには健康で動けることが条件ですから、まだまだこれからの活躍を期待しているので、時にはゆっくりすることを心掛けてください。
とても大切な話を伝えてくれました。慌てることなくゆっくりと進むこと。そのためには身体と健康に氣をつけて動けるようにしておく必要があります。自分で健康を護ることを大事にしながら、見えない力に感謝する心を忘れないようにしたいと思います。